表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第一章「永遠の森」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/35

第二十一話「果てなき迷宮」

 寝息をたてるフィオナを背負ったまま、蝋燭揺れる暗がりの道を黙々と進んだ。

 ──明かりだ。

 蝋燭の揺らめきが途切れると、蒼い光が目を刺す。

 眩しさに、たまらず顔を伏せた。

 光に目が慣れるにつれ、円環状に積み重なる石造りの回廊が──静かに全貌を現した。

 回廊は天へ向かって幾重にも伸び、古びた扉と、崩れかけた螺旋階段がいくつもある。

 無数の道が縦横無尽に絡み合い、巨大な迷路のようになっていた。

 天井には円形の穴が開き、遥か高みから空の光が降りそそいでいる。

 内部は白い霧がゆらりと漂い、奥行きは曖昧だった。

 ──ここは、“迷宮”だ。

挿絵(By みてみん)

 ドサッ。

 上の通路から、緑の影が落ちてきた。

 小鬼(ゴブリン)──

「ギィアアアアア!」

 飛び掛かる脅威に、刃を駆け走らせる。

 肩から胴へ──

 斬ッ!

 すれ違い様の袈裟斬り。背後の気配は黙して沈んだ。

 俺は短剣を収め、階層全体を見払った。

 小鬼(ゴブリン)たちが、廊下を休むことなく徘徊している。

「やれやれ。モンスターだらけだな」

 同じ場所をひたすら行き来する魔物たちは、そうプログラムされた機械のようだった。

「ぐッ……」

 膝が折れかけた。ぎち、と足の関節が軋んでいる。

 壁に片手をつき、呼吸を整えた。

身体強化(ブースト)……使いすぎたか」

 はぁ、と深く息を吐き、背嚢をおろす。

 その上に、フィオナの頭をそっと乗せた。

 革袋をあけ、精霊の赤実をいくつか口に放り込む。

「酸っぱッ──苦ッ!」

 あまりの不味さに、たまらず魔法瓶の水を流し込んだ。

 水は、残り半分もない。

 この塔に水場があるのかも分からない。節約しなくては……。

「……疲れた」

 壁に背を預け、ずるりと座り込んだ。

 顔を上げると、無限に積み上がる階層に押しつぶされそうな気持ちになった。

 ぽっかりと丸い穴が開いた天井には、青い空が見えている。

 まさか、あそこまで登るんじゃないよな。

 気が、遠くなった──

 視線を下ろすと、床に転がる小鬼に目がいった。

 こいつらは弱い。だがしかし、呆れるほど数が多い。

 短剣を振るたびに、精神がすり減っていく。終わりのない残業仕事をしている気分だった。

「……?」

 小鬼の死骸──裂けた胴体からは、血が一滴も流れていないことに気づいた。

 代わりに、瘴気のような黒い魔素が、さらさらと砂のように零れ続けている。

 強い魔素で怪物が日夜生まれる──フィオナの言葉を思い出した。

 もしや、こいつらは純粋な生物ではなく……

 この塔が生み出した、“一種の防衛システム”なのではないだろうか。

 そう考えれば、どこか無機質で、機械めいた気味の悪さにも合点がいく。

 憶測が浮かんだとき、

 ドサッ、ドサッ──小鬼が続々と落下してきた。

「お前ら……、本当に、嫌いだよ」

 軽い舌打ちをして、黒銃に青い弾──煙幕弾を込めた。

 装填、回転、異常なし。

 撃つ。

 ボォンッ!

 白い煙幕が一気に膨張し、視界を吞み込む。

「ギィ……ギィ!」

 状況を理解できないのか、小鬼たちの短い鳴き声が響く。

 すぐにフィオナを背負い上げ、背嚢を腕へ通す。

 走り、走った──

 考えもなく、闇雲に。

 石階段を駆け上がり、上へ──

 さらに上へ──。

 正しい道なのか分からない。

 思考する体力は、とうに失っていた。

 

 ──徘徊する小鬼を斬り払いながら、階段を登る。

「はっ、はぁっ……」

 横目で階下を見ると、白霧で底は見えなくなっていた。

 迷路のような通路を彷徨い、また階段を上がる。

 フィオナはまだ目覚めない。安全な場所も見つからない。

 俺はいったい、どこにいるんだ。

 永遠に続くような迷宮に、心身は疲弊していた。

「ギァアアアア!!!!」

 無数の通路から、小鬼(ゴブリン)たちが再び現れる。

 六発あった煙幕弾は──残り一発。

 迷う暇などない。

 撃つ。

 ボォンッ!

 白煙の中を駆け突っ切った。

 光がある方へ。

 ひたすら、空を目指していた。

 気づけば──

 ひときわ大きな白い階段の前についていた。

 手に収まりそうなほど小さかった天井の穴は、もう大きく見えている。

 階段の入り口。左右に据えられた石台の火皿に、蒼炎がボッボッと灯った。

「来い、ってことね……」

 ──螺旋階段を上がっていく。

 小鬼たちは追いかけてこないようだった。

 四角い石窓からは外気が吹き抜け、春であるのに肌寒い。

 窓の外を覗いた。見下ろす先には広大な森が見えた。

 高い……かなり登ってきたようだ。

 ──階段が、終わった。

 白光が視界に満ちる。

 天井のない円形の広間。大理石が陽光を反射しており、眩しいほどに白い。

 果てなき迷宮は、ようやく終わったようだ。

 正面には、木製の無骨な大門がどっしりと構えられていた。

 大門の前へ足を運ぶと──

 ゴォォ……低い音を立て、ひとりでに大門が開いた。

 内部は、石柱が規則的に並び立っており、暗く湿った気配が肌にまとわりついた。

 嫌な予感が、背を撫でた。

「フィオナ……おい、フィオナ」

「んむぅ……」

 呼びかけるも、目覚める気配はない。

 仕方なく、そろりと足を踏み出して中へと入った。

 ゴォン!!

「うおっ」

 背後の大門が、叩きつけるように閉ざされた。

 顔を正面に戻すと、暗がりの奥──百メートルほど先に、水晶の扉が淡く光っていた。

 意外なほど近いゴールに、腕の力が抜けた。

 その時。

「ンァァー……」

 野太く間延びした音に、びくりと体が跳ねた。

 なんだ──。

 暗がりの奥で、ズシ、ズシンと重く地面が揺れた。

「グッ、グッグ、グッグッグ」

 それは、

 ()()()()()

「っ──」

 フィオナの太腿を掴む手に力がこもる。

 指先が、無意識に震えていた。

 俺は、音がするまで、“それ”の存在に全く気付けなかったのだ。

 ──“何か”が、来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ