記憶を埋める男
嫌なことを、こっぴどく僕を罵った恋人のことを忘れ新しい恋を始めるために僕はいま穴を掘っている。
この穴の中に彼女との思い出をすべて捨てようと思ったのだ。
女々しいと思われるかもしれない。だがそれが僕にとっては次の恋を始める儀式になるのだ。
穴を掘り終えた僕は車から彼女との思い出の品々を運んできた。かなり量があるので何度か往復する羽目になるが、それも仕方ない。
彼女に貰った服。彼女に贈ったネックレス。彼女から贈られた腕時計。2人で使ったマグカップ。歯ブラシ。写真。携帯電話。免許証。そして……。
「次の彼女は僕の過去を詮索しない人がいいなあ」
人殺しと罵ってきた彼女の顔を思い出しながら僕は穴を埋めた。