第七章:「夕暮れカフェの秘密」
福祉センターでの出会いから数週間。
誰からともなく「また会いませんか」と声が上がった。
場所は、駅前の小さなカフェ。古いけれど居心地のいい店だった。
5人が揃うと、自然と話が弾んだ。
美羽がLGBTQ支援の話をすれば、千代が昔の恋の武勇伝を笑いながら語り、
梨花は「職場では言えないんだけどね」と前置きして、初めて自分の心の揺れについてぽつりと話し出した。
「…女の人を好きになることが、あるんだと思う。最近、はっきりしてきた。」
その瞬間、カフェの空気が少しだけ変わった。
誰も驚かない。ただ、静かにその言葉を受け止める。
そして和子がゆっくりとカップを置き、小さな声で答えた。
「私も…最近、誰かにドキドキするなんて、思ってなかった。」
視線は、朋子に向けられていた。
朋子はゆるく笑いながらも、目をそらさなかった。
「…同じかもしれないわね。私も、あの時から。」
頬が少しだけ染まり、指先が震えていた。
それに気づいた和子が、そっとその手をテーブルの下で包み込む。
触れた瞬間、言葉では伝えきれない温度が流れた。
その様子を見ていた千代は、ワインをひと口飲みながらぼそりと言った。
「若い子には、わからないわね。この感じ。熟れた果実のほうが、甘いのよ。」
カフェの中に、笑いが広がった。
そして、美羽がふと立ち上がる。
「…このあと、どこかもう少し静かな場所に行きません? もっと話したい。」
梨花が彼女の視線を受け止め、頷いた。
「ええ。今夜は、まだ終わらせたくない。」
外はすっかり暮れていた。
カフェを出た5人の背中が、街灯に照らされ、やわらかく重なっていった――