表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の音  作者: うぃ
2/8

第二章:「石井梨花 ― 声に出す言葉、出せない想い」

 人前で話すことには慣れている。

 会議、プレゼン、講演会。仕事ではいくつものステージに立ってきた。

 だが今日の朗読ボランティアは、いつもと違う緊張があった。


 「銀河鉄道の夜」を読みながら、梨花の目線は自然とある女性に引き寄せられていた。

 髪をきちんとまとめ、猫背気味に座るその人。

 年齢は自分より上だが、どこか繊細で、言葉をひとつひとつ味わうように聞いている姿が印象的だった。


 ――あの人、佐伯さん…って名前だったかしら。


 先日、職員から参加者の一覧を見せてもらったとき、名前が目に留まったのを思い出す。

 彼女の隣に座る落ち着いた女性もまた、品があり、どこか詩のような空気をまとっていた。


 朗読が終わった後、数人から感想をもらったが、彼女たちのところへは行けなかった。


 なぜだろう。

 近づきたいのに、怖い。

 自分の“どこか”を見透かされてしまいそうで。


 職場では完璧なキャリアウーマンとして通っている。

 けれど本当の私は、夜の帰り道でふと、誰かに名前を呼ばれたいと思う。

 その誰かが、女性であってもいいと――気づいたのは、もう何年も前のことだった。


 「また、来よう。次は…少し、話してみよう。」


 梨花は心の中で小さく誓い、カップに残った温かい紅茶を一口飲んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ