第一章:「午後の光の中で」
これはラブコメとホラーが含まれています
市の福祉センターの広間には、午後のやわらかい光が差し込んでいた。
桜の季節も過ぎ、窓の外はすっかり初夏の気配。テーブルの上には、菓子皿とお茶の用意。
今日は地域ボランティアによる「朗読とお茶会」の日だ。
佐伯和子は、少し緊張しながら席に着いた。
パート先の同僚に勧められて来たものの、こういう集まりは久しぶりだ。
「失礼します、ここ空いてますか?」
やさしい声に顔を上げると、中原朋子がいた。
あの病院で出会ってから、少しずつ言葉を交わすようになった彼女だ。
「はい、もちろん…!」
そこへ朗読ボランティアとして、石井梨花が登場する。
キャリアの傍ら、社会貢献の一環として参加していた。今日は『銀河鉄道の夜』の抜粋を読むという。
「皆さん、こんにちは。朗読ボランティアの石井です。短い時間ですが、どうぞよろしくお願いします。」
和子と朋子は、自然と彼女の声に惹き込まれていった。
数分後、遅れて現れたのが竹中美羽。
LGBTQ当事者の立場から、高齢者との対話イベントに関心を持ち、見学に来ていた。
「…すみません、途中からでも入れますか?」
彼女の存在に気づいた梨花が笑顔で手招きする。
そして会の終盤、職員に付き添われて三好千代がやってきた。
彼女は認知症の軽度な症状を抱えながらも、朗読に惹かれて時々参加している。
「久しぶりね、朋子さん。」
千代の言葉に朋子が驚いて振り向く。
「千代さん…まさか、ここで会えるなんて。」
こうして、5人の人生が静かに交差し始めた。