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プロローグ

エルシャールの人生は、生まれてからずっと誰かに消費される人生だった。

どれだけ努力して作り上げた物や大切にしていた物。

例えどれだけ媚びへつらって足掻いても彼らは面倒毎を押し付けてエルシャールの全てを奪う事をやめなかった。

――それは死に際になったとしても変わらない。



「これより、元侯爵令嬢エルシャールの公開死刑を執り行う!」


薄汚れた布を1枚縫い合わせて穴をあけただけの粗末な服を身に着けたエルシャールは若干18歳にはどう見ても見えないほどみすぼらしく死の淵に追いやられた老婆に見えた。

落ちくぼんだ目尻に、かさついた唇。

1週間にも及ぶ暴力の雨を受け続けた身体には元の白さがわからない程傷だらけで、髪はホコリ塗れの箒にしかみえない。

細い身体を引きずられるようにして処刑台に連れてこられるエルシャールに国民は皆口々に叫ぶ。


「早く魔女を処刑しろ!!」

「そうだ!この国を混乱に招く魔女の首を早く撥ねてしまえ!!」


異口同音に罵倒を続ける彼らの中に、エルシャールを擁護するものは一人としていない。

皆、興奮して押し合いながらエルシャールの汚れた血が飛び散るさまを見ようとうごめいていた。


エルシャールは彼らの暴言を受けても反応を示すことなくうつ向いたまま処刑台の前に立たされても尚、動揺すらみせず落ち着いている。

麻縄に結ばれた手を見下ろすエルシャールに1番前を陣取る女から汚物をぶつけられても彼女は避ける事もせず、汚物を受け入れた。


「最後に言い残す事はあるか?」


膝をついて座るエルシャールの後ろで大斧を構えた男を一瞥してエルシャールはその日初めて顔を群衆に向けた。

先程までの騒ぎが突如として止まり、大勢がエルシャールの最後を待つ。


「……」

「人殺し!!」


彼女が何も言わずにいると子供の甲高い声が辺りに響いた。

泣きわめきながらエルシャールを非難する子供にエルシャールは初めて反応を示すと、子供に唯一残されていた目を向けた。


――この世の赤を煮詰めたような赤。


どれだけ、汚されて傷つけられてもエルシャールの瞳だけは光り輝き、それが一層不気味な印象を人々に与えていた。


「ひぃっ!」

「早くあいつを殺してくれ!!」


エルシャールの内側から光り輝く瞳を見たある者は恐れ、ある者は死刑執行を急かす。

そうして再び群衆が騒ぎ始めた所で、大斧が振り上げられた。

エルシャールに向かって刃が落ちる、その瞬間。

彼女はひび割れた唇を釣り上げた。



「――この死がどうか破滅に導きますように」

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