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第八十六話「双花祭」

お久しぶりです。

一通り落ち着きましたので更新再開します。

「はぁあああ~……」


 心機一転、心をまっさらに入れ替えるように訴えかけるような白亜の壁で囲まれた教室。

 奇麗にされてまだ粉一つついていない黒板から後方へ進むごとに階段のように高くなる座席の最奥。

 白すぎる教室で窓から差し込む光がスポットライトのようにあたしを照らす。


 そんな状況でも、あたしの気分は暗いままで机に突っ伏しながら肺の空気をすべて出す勢いで深く息を吐いた。


「大丈夫サラちゃん? 調子悪いなら保健室でも行く?」


 そんなあたしを隣の席のメイリーは心配してくれた。

 すべての汚れに気を使いそうな真白のブレザーは彼女の身体のシルエットを形作り、視線を集める緋色のネクタイは意外と大きいという事実が発覚してよりその曲線に目を引く。

 国立第一騎士学園――通称ホワイトリリーの制服であたしと同じはずなのに、メイリーが着ると清楚と華やかさが増して、絵画として彼女の周りに額縁の幻影が見えてきそうだ。


 杏のような柔らかい黄赤色の髪と包容力のある癒しの声。

 突っ伏しているあたしの顔を隙間から覗き込むように前のめりになるメイリーの優しい瞳が、腕の隙間から僅かに視界に映る。


 そんなメイリーに心配をかけまいと、あたしは丸めた背中をぐっと伸ばして背もたれに体重を預ける。


「ううん、大丈夫。心配かけてゴメンね」


「無理しないでね」


「はぁあ~優しさが心に染みる。もしかしたらメイリーの特性は人を癒す特性なのかもしれない」


「もうサラちゃんってば。特性は授吻しないと発揮しないよ」


「メイリーとの授吻……ごふっ、刺激が強い」


「サラちゃん!? 大丈夫!?」


 アリシアやクレア、イリスはもちろんのことリーナとすら授吻したことのあるあたしだけど、メイリーとは一度もしたことがない。

 メイリーとの授吻を想像してしまったあたしは鼻血が出そうになってしまった。


 手で鼻と口を押えて悶えるあたしをメイリーは余計心配そうに見つめる。

 

「ほんとに大丈夫。ちょっとあたしごときが天使様に安易に触れてはいけないことを思い知っただけだから」


 あたしの軽口にメイリーは小首を傾げた。

 

「まー大丈夫ならいいんだけど。まー今日からまた授業授業だから、ため息の一つや二つ出てくるよね。わたしも少し眠たいかも」


 メイリーはそう言いながら口元を手で隠して小さくあくびする。

 メイリーの言っていることは完全同意なんだけど、なんならメイリーがカラスは白いと言ったら白いんだけど、今回あたしのため息の原因は別にある。


 結局、アリシアとウルカさんの関係について何も分からなかった。

 昔からアリシアの世話をしているウィステリアさんすらも、ウルカさんとの関係については深く知らないみたいだった。

 ただウルカさんを相手にしたときのアリシアの反応が見るに堪えなくて、ただ、本人が何も話してくれないので気を使いながら見守ることにしたそうだ。


 あたしもあの茶会の後、アリシアの部屋に行ったけれど結局会えたのは次の日の朝。

 その頃にはアリシアは普段通りに戻っていて、それとなく聞いてもはぐらかされるばかり。

 何もできない無力感と踏み込めなかった自分へのモヤモヤを抱えたまま、何も解決せず学園生活が始まってしまった。


「まーしっかり気合を入れないと。こんなとこアレクシア先生に見られたら怒られるし」


「そうだねー。それに今は双花祭に向けてみんなバタバタしてるし、のんびりもしてられないよね~」


「双花祭か……」


 国立第一騎士学園――通称”ホワイトリリー”。

 軍政国家であるユリリアにとって軍に入る騎士を育てるこの学園は国の未来を担う人材を育てる場所だ。

 そして第一と謳うからにはもちろんホワイトリリーだけではない。


 国立第二騎士学園。

 白い制服が特徴的なホワイトリリーとは対照的に漆黒の制服に身を包み、ホワイトリリーと対を成す存在であることから通称“ブラックリリー”と呼ばれている。


 ブラックリリーもまた、国の未来を担う人材を生み出す教育機関。

 この二つの学園が七日間に渡り競い合う、ユリリアで年一回行われるビッグイベント――“双花祭”。

 二つの学園が交流し、互いに切磋琢磨しながら良い刺激を与え合うことが本来の目的なわけだけど、国家的なイベントであることと、ホワイトリリーとブラックリリーが互いにライバル視している関係も相まって良くも悪くもいろいろあるイベントらしい。


 だけどホワイトリリーだけで総生徒数は五千人を超え、単純計算でブラックリリーも合わせて一万人の生徒全員が双花祭の競技に参加するわけじゃない。

 競技に参加するのは各校ダブルペタルから三組、トリプルペタルから三組、クインペタルから三組の合計九組、二校合わせて三十六人だけ。

 

 ダブルペタルの成績トップであるリーナは双花祭参加確定なので、その打ち合わせや準備などいろいろ忙しく、後期初日のもうすぐ授業が始まるというのにまだ教室にはいない。


「ま、シングルペタルのあたしには無縁のイベントだけど、競技以外もいろいろあるみたいだし、あたしは祭りとして楽しもうかな。準備とかで委員会も忙しくなるだろうし」


 双花祭はユリリア国の最高機関である総統府官邸があるユリリアの首都コームで行われる。

 五万人超えのキャパシティを誇る会場もさることながら、周囲には双花祭のサブイベントや出店などが広がり、首都全体がイベント会場と言っても過言ではない。

 たかだか祭りに七日間は長いと思ったけど、規模や去年の話を聞いて逆に七日間では足りないという感想を抱いたあたしはリーナの応援に徹して祭りを楽しむことにした。

 

 ただあたしの計画を聞いて、メイリーは不思議そうにあたしを見る。


「サラちゃんは無縁じゃないでしょ? 競技に出るかもしれないんだし」


「どゆこと?」


「去年にティアナ会長の意向で六組は今まで通りだけど、この長期休暇で頑張った人にもチャンスをってことで残り三組に関してはシングルペタルの生徒も踏まえて選考会を設けることになったんだって。それにダブルやトリプル、クインペタルの試験に落ちた生徒はこの選考会で選ばれたらそれぞれダブル、トリプル、クインペタルとして認められるらしいよ」


「じゃあシングルペタルのあたしにとっては追試まで待たなくてもダブルペタルになるチャンスってわけ? ちょっとイリスに相談しないと。じゃあメイリーも双花祭出るかもなんだね」


「ううん、わたしは選考会をパスするつもりだから。選考会の参加は任意だし、ペタル試験に落ちた生徒にとってはチャンスだけど、合格した生徒にとっては切羽詰まった事情がない限り参加しない生徒も多いよ。純粋に祭りを楽しみたいって生徒もいるから」


「そっかー。そういうことならメイリーの分も頑張ろっかな。まーまずはイリスが参加するかどうかだけど」


「その心配はないんじゃないかな。ほら」


 メイリーに視線を促されて、あたしは教室の前扉の方を見る。

 そこにはイリスがこっちを見ながら小さく手で来いとジェスチャーしていた。


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