第八十四話「総統閣下と大輪七騎士《セブンスリリー》」
ユリリア国総統府官邸。
『庭園』の跡地に建てられたそれは、管理するのに多大な人件費を要する広大な敷地の中心で一際目を引く白亜の石で築かれた、高さこそ控えめだが広大な土地を活用した横に伸びた構造の巨大な城だ。
精緻な装飾をまといながらも重厚でまるで大地の上に彫り込まれた一枚の彫刻のように連なっている外壁には大小の窓が規則正しく並び、昼間なら鏡のように広い敷地の緑を映し返しているが、夜の今では巡回中の騎士達が手に持つ明かりを蛍のように映し出している。
白い外壁と対照的な黒い瓦の屋根は、太く力強い円塔、豪奢な尖塔、折り重なる小塔や煙突が城を覆うように林立する塔群で、月明かりによる複雑な影を庭に落とす。
しかしながら俯瞰的に見るとその構造に統一感があり、建築士のこだわりだけでなく歴史や威厳も十分に感じさせる。
無駄なものが一切ない芝の敷地で上空から覗くと模様のように規則的な伸び方をしている石畳の道には、蟻一匹通すことを許さない多くの騎士達が巡回しており、この場所の重要性を如実に表している。
そんな土地を訪れる二人の女性。
夜に溶け込む長い黒髪は月明かりでその艶を美しく反射させて、ドレスのような軍服は格式張ったこの場所に立ち入るに相応しい格好だ。
そしてその少し後ろで追従するのは使用人の格好をした、夜の暗闇で水色の髪は深い青に染まった女性。
自信に満ちた足取りの黒髪の女性とは違い、主の影としての振る舞いで歩いていく。
近付くと総統府官邸が隠れるほどの大きな壁が、神域となる官邸領と外部を隔てている。
模様のように魔方陣が彫り込まれた壁の門、騎士でなければ酔ってしまうほどの魔力が漂っているその金属製の壁門には地上に二人、その上の見張り台に二人の計四人が門番として警備している。
本来なら近づくのにそれなりの勇気と覚悟が必要なその場所に、まっすぐ進むその二人は門を固める二人に止められる。
「黒鴉姫のウルカとミルフィよ」
名乗る黒髪の女性――ウルカは官邸領に立ち入るのに必要な身分証を提示する。
門を固める騎士は目の前の女性がウルカとミルフィであると分かっていながらも身分証を確認する。
「お待ちしておりましたウルカ様、ミルフィ様。皆様もう揃っておられます」
身分証を確認した騎士は軽く頭を下げた後、門を開けるように中の騎士に指示を出す。
鎖を引く音と鉄の擦れる音が夜の静けさに響き渡り、ウルカとミルフィは中へと入っていく。
「え、全員? リープももう来ているわけ?」
「はい。二時間ほど前にスージ様に抱えられながら……」
「ってことはワタシ達が最後ってわけね。これはマヴディルにいろいろ言われるわねー。帰ろうかしら」
ウルカは面倒そうにため息をつく。
さっきまでの勢いある足取りが急に重くなるウルカの背中を、ミルフィは後ろから優しく押す。
「ダメですよ、ウルカ様。呼び出した本人が来ないとなると、マヴディル様どころか総統閣下にまで何と言われるか……」
「そうよね……」
そうブツブツと言いながらウルカは官邸の中へ。
建物の中にも当然ながら多くの騎士が警備にあたっている。
ウルカとミルフィがカーペットの敷かれた廊下を歩くと、警備の騎士はどうしてもそちらの方へ視線が向いてしまう。
その視線の数々は羨望もあれば畏怖もある。
感情のこもった視線を浴びながらも、注目されることに慣れている二人は気にすることなく目的の部屋へ。
徐々に警備が多くなる廊下を進んでいき、扉を開かずとも内部の存在感と緊張感が漏れ出ている部屋の前へ。
そしてその扉の前で立っている騎士に再度身分証を提示して扉を開けてもらう。
部屋は真っ暗で広さや内装は見えづらいが、スポットライトのような光が中央を照らしている。
部屋の中心には巨大な八角形のテーブル。
その一辺ごとに二席ずつあるが、ある一辺には一席しかない。
その一席は他の椅子とは違い大きく豪奢で、他の席と格が違うことを示している。
計十五席、二席を除き着席済みだ。
「えーっと……遅れたわ」
入室一番、ウルカは全員の不満や苛立ちによる視線を受けながらそう言った。
その言葉をいつものことのように流すのが数人、やれやれと呆れるのが数人、そして激情に駆られるのが一人。
その一人は机を強く叩き、ウルカを睨みつける。
「招集者が一番最後とはどういうつもりだ。貴様は大輪七騎士としての自覚が足りん」
厳しい口調で詰問するのは大輪七騎士の第二席——深淵姫のマヴディルだ。
毛先は顎に向けてシュっと締まっているスノーホワイトの髪は短いが、襟足は首筋が隠れるくらいには長く、揺れる前髪からは黄土色の瞳が鋭くウルカを捉えている。
お腹辺りで絞められて女性らしいシルエットを出すロングコート風の軍服は堅物の印象を誰もが持ってしまう。
その隣の席でマヴディルの言葉に頷いているのはマヴディルのパートナー——リーム。
黄みがかった白い髪は鎖骨辺りまで伸びて、両側頭部では髪を括られてテールになっており、前髪は分けられておでこがはっきりと見え、かけている眼鏡が光を反射している。
マヴディルと同じような軍服を着こなし、マヴディルの堅物感と比べてこちらは真面目な印象を与える。
「これでも定刻通りじゃない。時間通りに来てもどうせリープ達が遅れると思っていたのよ。まさか二時間も前に来てるのは予想外だったわ」
「あーわたしが抱えて無理に連れてきたわ。この通り寝てるから堂々と出席しているなんて言えないけど」
「ぅーん……」
弁明するウルカに言うのは第七席、治癒姫――そのパートナーであるスージ。
白群青の髪は足の付け根くらいまで長くツインテールに纏められている。
長い脚に吸い付くようなズボンと首元を隠すマフラーがスタイリッシュな大人の雰囲気を醸し出す。
その隣で机に突っ伏しながら眠るのは治癒姫のリープ。
顔は見えず、長い今紫の髪は手入れされているものの、今では雑に毛先を散らしている。
着崩れている軍服は肌触りが良さそうで、遠目で見れば部屋着のようだ。
「治癒姫は関係ないだろう。我は貴様に言っているのだウルカ」
「深淵、あれに文句を言っても時間の無駄。とっとと話を進めて」
「アーリー言い方……。マヴディルさん、アーリーは場を鎮めようとしているだけで決してマヴディルさんの行いを否定しているわけではありませんよ」
苛立つマヴディルを静かな声で制止するのは第三席——最速姫のアーリー。
あと二年放置すれば地面に触れそうなほど伸びた灰白色の髪は椅子に座るとついてしまうので肩から前に出している。
軍服は肩から先、お腹辺りは露出され、短パンで綺麗な太腿も見える露出の多目な服装をしている。
その隣でフォローを入れるのはアーリーのパートナーであるヒュラ。
深紅の髪は一部編み込まれ、アーリーほどではないが腰辺りで毛先を揺らしている。
露出の多いアーリーの服装と対照的に、ヒュラの服装はきっちり軍服とインナー、手袋で顔以外の肌が見えない。
「俺も最速姫に同意だ。一応時間通りに来てるんだ。許してやろうぜ」
「さすが姉御。懐が深い!」
マヴディルに豪快かつ懐の深さを見せる笑みを浮かべるのは第四席——拳闘姫のフィスト。
黒い帽子からくすんだ黒髪がこぼれ出て、大きなガタイの身体に着る丈の長い軍服は前が開かれて、胸元のサラシや割れた腹筋が見えている。
その隣で羨望の眼差しをフィストに向けるのはパートナーのフィン。
隣のフィストの存在感のせいか、少し幼く見える顔立ちと小さな躯体、暗褐色の髪には赤色のリボンが結ばれて、フィストと同様に前を開いた軍服を着ているが、サラシではなく白シャツと赤いネクタイをしている。
「貴女のそういうとこ好きよフィスト。さ、許されたことだし席に着くわよミルフィ」
「その切り替えは火に油よウルカ」
「ははは……」
話を切り上げて着席するウルカとミルフィに一言入れるのは第五席の壌森姫のレスト。
春の若草のように鮮やかで明るい黄緑色のボブっぽい短髪からは枝のようなものが生えており、軍服の首元からファーの付いたフードが肩甲骨の間に垂れている。
隣で苦笑いを浮かべる山吹色をしたセミロングの女性はレストのパートナーであるフルール。
ちゃんと軍服を着ているようで、その胸元は開かれて谷間が見えている。
ポケットに手を入れて背もたれに体重をかけるレストと対照的に、フルールは背筋を伸ばして座り育ちの良さが垣間見えている。
「んっ……あ、ジュジュちゃん、これ美味しいよ」
「ちょっとルラキ、空気読んで」
緊迫した空気の中でどこかで買ったパンを食べるのは第六席である大海姫のルラキ。
透き通るような水色の長髪には透き通ったリボンが結ばれ、肩回りや手首にはシュシュやスリーブといったもので、のほほんとした雰囲気を醸し出し、人魚姫のような深い魅力を見せつける。
そのルラキを注意するのは黄土色の髪に明るい黄色のメッシュが入ったパートナーのジュジュ。
小柄な身体と短い髪、少し幼く感じる声には元気と活力が感じられ、軍服をジャケットのように着こなしている。
「……では全員揃いましたね。それでは始めましょうか。ネーム、進行を」
「承知いたしました。これより黒鴉姫のウルカ様の招集による緊急会議を始めます」
渋い声で場を引き締め、その声に自由奔放な大輪七騎士全員が視線を寄こした。
一番最奥に設える豪奢な席。
その少し後ろで背筋を伸ばし立っている女性はバインダーを胸の前で持ち進行を務める。
ユリリア国副総統――ネーム。
着こなした軍服は規則正しく、肩のマントがひらりと舞い、制帽から短い銀髪が零れ出る。
両手には革製の黒い手袋をはめ、手に持ったペンでバインダーに何かを書き始めている。
そして大輪七騎士全員の視線を集めるのは大人の魅力あふれる麗しき女性。
艶のある黒い髪は眉辺りで切り揃えられ、長い後ろ髪もまた毛先が一直線に揃えて切られている。
ネームと同じように軍服を着こなしているが、胸元には多くの勲章が付けられてその経歴と威厳を強く示している。
ユリリア国の最高権力者にして、唯一大輪七騎士を従わせる存在。
フィメール総統閣下は、席に着いた十四人を見据えて不敵に笑った――――。
ちょっとキャラが一気に出たので整理しておきます。
総統閣下 フィメール
副総統 ネーム
第一席 黒鴉姫 ウルカ・ミルフィ
第二席 深淵姫マヴディル・リーム
第三席 最速姫アーリー・ヒュラ
第四席 拳闘姫フィスト・フィン
第五席 壌森姫レスト・フルール
第六席 大海姫ルラキ・ジュジュ
第七席 治癒姫リープ・スージ




