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第六十八話「ミリナの目的」

「このッ!!」

 

 ミリナは苛立ちに感情を支配されながら召竿(ロッド)を振るう。

 相手は最優姫(エクセレントリリー)、ホワイトリリー生徒会長にして大輪七騎士(セブンスリリー)候補とも言われるほどの実力者。


 今のミリナは養成施設に居た時とは違う。

 あの時よりも精神的にも、肉体的にも成長した自覚はある。


 それでも届き得る相手ではないことは分かっている。

 だからといって負けるわけにはいかない。

 

 リサナを手に入れるためにも――――騎士という存在を否定するためにも。


「ハハハハッ、どうしたミリナ君。動きが荒いぞ」


 ティアナの実力を踏まえると、ミリナの魔法はとても相性が悪い。

 召喚した怪物はミリナの思い通りに動かすことが可能だ。

 だが別の生物である以上、ミリナの周りに敵が来るとどうしてもミリナを巻き込まないように動きに制限が生まれる。


 対してティアナは魔法こそまだ見せていないものの種器も手袋型明らかに近接格闘を主としている。

 となれば近距離(ショートレンジ)に踏み込まれればティアナの有利は絶対になる。


 近づくティアナにミリナは召竿(ロッド)を横に薙ぐ。

 釣り竿の形をしているとはいえ金属製の武器をぶつけられても問題ないほどの耐久力はあり、棍棒としての効果は十分だ。


 そんな召竿(ロッド)をティアナは裕に躱す。

 躱したことでティアナの足が止まった隙に距離を取り、操る怪魚で攻撃に移る。

 

 今のリサナが取れる手段としてはそのくらいだ。


 当然、そんなものでティアナを相手に出来るわけがなく、近距離に踏み込まれるのにそう時間はかからなかった。


「よし捕まえた」


「ミリナ!」


 召竿(ロッド)を握る両手をティアナは捕らえる。

 腕力で劣るミリナは召竿(ロッド)を振りたくてもなかなか動かせない。

 戦況を心配するルシフェリアも、シースである以上直接の加勢は出来ない。


「もう諦めたまえミリナ君。実力的にも、魔法的にも――そして戦況的にも私にアドバンテージがある。君の魔法なら私を相手にしつつ、シースであるリサナ君を狙えば……まー簡単にやられるリサナ君ではないが、それでももう少し相手になっただろう。だが君はリサナ君に手を出す様子はない。君がリサナ君を思う気持ちは紛れもなく本物だ」


「くっ……」


 ティアナの言っていることは事実で、ミリナはもどかしさに歯を食いしばる。

 間合いに踏み込んだ以上、ティアナはその気になればミリナを攻撃できたはず。

 わざわざ行動を封じただけのティアナにはどうしても聞きたいことがあった。


「ミリナ君のリサナ君を思う気持ちが本物なら、どうして君はラミアなんかに入った? たとえ養成施設では花開かずとも、今の君なら胸を張ってリサナ君を会うこともできたはずだ。それこそホワイトリリーに来ることだって――――」


「うるさい!!」


 ティアナの言葉を遮るミリナの怒号。

 喉が掻っ切れんばかりの怒気に、さすがのティアナも黙ることしか出来ない。


「あんたみたいな自分が正義の側だとふんぞり返っている奴が一番嫌いなのよ!」


 ミリナの声に反応するように、マグロのような怪魚がティアナに特攻する。

 今の距離はティアナの間合い。

 重心をずらし、襲い来る怪魚にミリナとぶつけることだって可能だ。


 ティアナはミリナとの距離を取り、ミリナの目の前を怪魚が横切る。

 この行動はミリナの予想通りだった。


 距離を詰められ動きを封じられたことで確証した。

 ミリナがリサナに手を出さないように、ティアナもまたミリナに現状手を出せずにいる。


 リサナの眼もあり、ミリナをどうにかしてやりたいと思っている。

 それが可能な実力に差があるからこそ、ティアナはミリナに手を出し渋っている。


 その心理を突けばティアナから致命傷を与えられることはない。

 

 そうとなれば作戦変更。


「おっと、そうきたか」


 余裕綽々だったティアナがまだ余裕そうな笑みを取り繕いながらも、ぐっとティアナとの距離を詰めるミリナの意図を理解して焦りが僅かに表情に現れる。

 

「ほら攻撃出来るものならしてみてよ最優姫(エクセレントリリー)!」


 ティアナの間合いであるはずの近距離に踏み込み召竿(ロッド)を振るう。

 当然ティアナはそれをあしらうことは簡単だが、さっきと違うのは守る対象が一人増えたということだ。


 ミリナの操る怪魚はさっきまでとは違い、容赦なくティアナを攻撃してくる。

 その動きはミリナの安全など一切考慮していないものだった。


「自傷前提の特攻……かまってちゃんもそこまで来るとメンヘラというものだよミリナ君」


 自身が巻き込まれることを承知の上で近距離戦闘に持っていく。

 ティアナがミリナを見捨てれば一瞬にして終わりの戦法だが、ティアナは簡単に見捨てないという確証があった。


 リサナはミリナと戦う覚悟を決めている。

 それでもティアナがミリナに手を出していないのは完全に自己満足だが、最優姫(エクセレントリリー)としての立場がそれ以外の手段を許さない。


 死ぬことすら前提の特攻でミリナが死んでしまえば、最優姫(エクセレントリリー)としてのティアナは負けだ。

 殺さずに制圧することが絶対条件。

 出来れば痛めつけたくもなかったのだが、

 

「これは……さすがに無傷で制圧するのは難しいかな。ごめんよミリナ君」


 ティアナはミリナの腹部に掌底突きをお見舞いする。

 手加減しているとはいえ、ミリナはこみ上げるものを吐いて地面に突っ伏した。


 そんなミリナにお構いなくイカ型の怪魚が触手で浜を抉りながら薙ぎ払おうとする。

 今ここで避けてしまえばミリナがその触手に巻き込まれる。

 ティアナはその触手を殴りつけて攻撃を弾く。


 肉感の強い触手はティアナの拳に肉を震わせながら吹き飛び、その触手に引っ張られるようにイカ型の怪魚が体勢を崩した。


 ティアナの躯体からはイメージし辛いほどの破壊力のある攻撃に、今腹部にお見舞いされた一撃はかなり手加減されていたことをミリナは自覚する。


「このっ……」


 ミリナは腹を抑えながらティアナに召竿(ロッド)を振るう。

 思いのほかお腹のダメージが大きいのか、動きは明らかに遅くなっていた。


「諦めたまえミリナ君。君は今、内臓が鉛のように重くなっているはずだ。今しがた君にお見舞いしたのは古武術の一つで、内臓に響かせる打撃。リサナ君の特性が無ければここまで上手く扱えないけどね」


「リサ姉の……」


「リサナ君の特性は付与型特性。授吻した相手の経験を倍以上にするものだ。もちろん素の私に上手く手加減できるほど古武術の経験はないが、リサナ君の授吻によりそれが可能になる。今君がお腹を押さえるだけに済んでいるのはリサナ君のおかげだと言ってもいい」


「だからなに? あたしはまだ負けてない」


 額に汗を浮かべ苦しそうにしているミリナだが、その目にはまだ闘志が残っている。


「無茶しないほうがいい。あと数分もすればまともに動けるだろうが、動けるようになったところで同じことを繰り返すことになる。私としてもそんな拷問のようなことはしたくない。リサナ君にも痛めつけられるミリナ君の姿を見せたくはないしね」


「ならいっそ潔く殺せば? あたしはラミアに入った時から死ぬ覚悟は出来てる」


「……なるほど。それで、君が命を張りラミアに入ってまで成し遂げたいこととは一体なんだい? ラミアは反抗期なチンピラの集まりや金が目当ての犯罪集団とも異なる、なにやら思想的な組織に思える。属しているということはラミアの思想に何かしらの共感をしたのだろう? それは本当にラミアでないと成し遂げないことなのかい?」


 少し回復したのか、ミリナはまだお腹を押さえつつも足の踏ん張りが利いて体の軸が安定している。

 ティアナの凛々しく鋭い瞳がミリナを見据え、そんなティアナにミリナは不敵な笑みを浮かべた。


「ラミアという組織の目的は知らない。けど、あたしは……あたし達はラミアがしようとしていることの一つに賛同して集まってる。始祖の魔女が一人――ブレイドの“サイ”、そして“サイ”が生み出した『庭園(ガーデン)』の完全復活」

 

 ミリナの言葉にティアナは言葉を失う。

 出来るわけがないという呆れがありつつも、その目的を信じて疑わない確かな瞳に本気度が伺えてしまい、その手段があるのかと思ってしまう。


 今まで捕らえられたラミアの構成員は末端組織、いやどちらかというと社会からあぶれた連中の集まりが利用されているのがほとんど。

 だからこそ、捕らえたとしてもラミアという組織について何も分からず、その目的も不明のままだった。


 ここに来て初めて、組織としての目的では無いにしろ、ミリナを含め今いる連中のはっきりとした行動意義が分かった。


 だとすれば彼女らは今までにない貴重な情報源。

 なおさら彼女らを生かして必要がある。

 

「リサナ君のためにも、社会のためにも……ミリナ君、君を絶対に生かして捕らえる必要が出来た。そのために多少手荒にはなるが許してくれ」


 ここに来て初めて、ティアナは重心を下げて確かに構える。

 その気迫にようやくまともに回復したミリナは、怯えるわけでもなく不敵な笑みを浮かべるままだった――――。


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