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第六十七話「ティアナVSミリナ」

 朝方の海辺。

 空は快晴、海風は強けれども気候は安定している。

 リゾート地の、それもホテル街などからはかなり離れているので人は少ない場所。

 

 そんな本来爽やかであるはずの空間で、殺伐とした視線と気配が絡み合う。

 自信、懸念、嫌悪、敵意。

 眼差しに含まれるそれぞれの感情。


「さて、彼女らはクレア君らが相手するとして、私達はどちらを相手しようか。まー片方はあまり戦う雰囲気ではないようだけれども」


 腕を組んで胸を張り、自信と威圧感に満ちているティアナの眼は、これほどまでに殺気が飛び交う空間でも額にゴーグルをつけた灰色の短髪の少女――エレクトラの背中でぐっすりと眠る赤い長髪の女を見据える。


「姉貴……いい加減起きてくださいってぇ……」


 エレクトラが小さく飛び跳ねて体を揺らすも、遊び疲れた子供のように起きるそぶりはない。

 凛々しさを感じさせる切れ長の眼は閉じられている。

 熟睡しているはずなのに、なぜか隙は感じられない。


 だがそれでも眠っているということは、警戒はしておくにしても掛かりっきりになる必要もない。

 そう判断したティアナはこちらを嫌悪感むき出しで睨むミリナに視線を戻す。


「ふむ。ミリナ君はリサナ君の友なわけだし、出来れば手荒な真似はしたくない。一応尋ねるが自首する気はあるかな?」


「あるわけないよ。あたしはあんたからリサ姉を奪ってみせる。絶対に……」


 嫌悪感は確かな敵意、殺意を大いに含んでいる。

 それなのにティアナは子供をあしらうかのように少し困った表情を浮かべるのみだ。

 その余裕な感じに、ミリナの感情は余計に逆なでされてしまう。


「ルシフェリア、やるよ」


「はいはい」


 こみ上げる負の感情を深く息を吐いて落ち着かせるミリナ。

 そんなミリナにぐっと体を寄せるルシフェリア。

 浅黄色の髪と紅のマントが海風に揺られて、眉を吊り上げるミリナとは打って変わって柔和な雰囲気を醸し出す。


「「んっ、ちゅぷ……」」


 意識を敵に向けながらもミリナはルシフェリアの口に自らの唇を乗せる。

 同じくらいの身長の二人はお互いにその体を寄せ合い、水っぽい音を漏らしながら、熱っぽい吐息を混ぜ合いながら魔力を受け渡す。

 

 白みがかった青色の中に、色素の抜けたような白髪がメッシュのように一部分見られるミリナの前髪と、鮮やかな緑がかった青いルシフェリアの前髪が隙間を縫うように混ざり合う。

 ミリナの少し感情任せな授吻をルシフェリアは慣れた感じで受け入ている。

 片手を相手の背中に回して抱き寄せて、空いた手は相手手と指を絡ませる。

 その場しのぎのパートナーではない、少女二人の合わさった呼吸と慣れた雰囲気の授吻。


 ティアナは見守ってあげたいと思いつつも、それほどの余裕もないと傍に控えるリサナの背中に手を回す。


 やや長身のティアナと、そんなティアナよりわずかに低いくらいのリサナ。

 すらりと伸びた足や引き締まりつつも出るところは出ている躯体。

 そんな絵画的な大人っぽい美しさを持つ二人が舞踏会で踊るかのように密着して、戦闘前とは思えないほどに落ち着いた雰囲気で顔を寄せる。


「ティアナ君、覚悟は決まったかな?」


「ええ、ミリナのためにも……私は戦わなければなりません」


 高い鼻が触れ合い、艶美な唇がかなさり合う。

 普段ハイテンションなティアナとはイメージが異なる落ち着いて深い授吻に、リサナもまた普段の冷めた態度とは違う熱のこもった授吻で応える。

 かなりの期間、パートナーとして連れ添ってきたティアナとリサナの授吻は見本とするにはかなり効率的で美しく奇麗に魔力を受け渡す。


 片手は互いに腰に添えられて、もう片方の手はダンスする前のように軽く握る程度。

 敵を目の前に二人の世界に入ることないが、それでも魔力の流れを意識して授吻を続ける。


 そして、授吻を終えて唇を離すと、もう一度覚悟を問うようにティアナはリサナの眼を覗き込む。

 その瞳には二週間前のような動揺も感じさせず、いつものリサナの眼に戻っていた。


「ではやんちゃな友人にお灸をすえるとしようか」


「はい、会長」


 そしてこれから戦う相手を見据えるティアナとリサナ。

 その視線の先には授吻を終えて構えるミリナとルシフェリア。


種器(シード)――召竿(ロッド)


 ミリナの手元に魔方陣が浮かび上がる。

 そこから出てくるのは海を凝縮したような青と白の装飾が施された硬質的な細長い棒。

 ミリナの身長より少し長く、先端には鋭さを感じさせる糸が伸びて先端には張りが日の光で輝き存在を放つ。

 見た目は釣り竿だが、リールはなく通常の釣り竿よりも太く柔軟性も感じ取れない。

 棍棒を釣り竿に改造したかのような見た目の種器をミリナは肩に乗せる。


「ふむ、面白そうな種器(シード)だね」


 興味深くミリナの種器を見るティアナ。

 そんなティアナもまた自らの種器を顕現させようと魔方陣を展開する。

 ティアナの両掌に浮かぶ魔法陣が、楽器を奏でるような軽快な拍手とともに弾けて種器が姿を現す。


 見た目は御者などが身に付けているような白手袋。

 布製ではなくやや頑丈そうな雰囲気こそあれど、それ以外はいたって普通の手袋だ。

 まだ鎧の手甲の方が丈夫そうに思える。


種器(シード)――誘手(ミスディレクション)。さあ、悪い子にはおしりぺんぺんだ」


「ホワイトリリーの会長だか何だか知らないけど、あんたをあたしは殺してリサ姉を連れて行く」


 ティアナとミリナ、二人のブレイドがパートナーからもらった魔力を剥き出し

「あたしの魔法は海の近くで本領を発揮する。ここはあたしのホームグラウンドなんだよ」


 ミリナは種器を海に向かって振るう。

 先端の糸はリールもないのにぐんと伸びて水平線近くの海の中へと投じられた。


「こんな時に釣りでも始めるのかい?」


「まあね。でも釣るのはただの魚じゃないよ。――――ッ!」


 ミリナは種器の僅かな感触を感じ取り、ぐっと力を込めて竿を引き上げる。

 ピンと張った糸に釣られるように、水中で爆発でも起きたのかと錯覚するほどの水しぶきを上げて顔を出したのは、遠くからでも大きいと認識できるほどの巨大な魚だった。


 その魚は種器の針から外れるも、海に戻るどころか空中を泳ぐように、空気を押し除けるのどの速度でティアナ達に突っ込んだ。


 ティアナとリサナは飛び引いて、砲弾のように浜の砂を巻き散らす魚を躱す。

 砂煙は海風に流されて、その魚の正体を確かに視認する。


 背中側は濃紺、腹部にかけてが銀灰色の魚。

 一瞬マグロを彷彿とさせるも、カミソリのような鋭利なヒレや細めの鎖なら嚙み千切りそうな鋭い歯、サメのような巨体に空中を優雅に泳ぐ姿、獲物を見据える無感情な瞳。


 ただの魚でないのは一目瞭然。

 海から出てきたとはいえ、あんなものが生息しているわけはなく。


「釣った魚を変異させて使役するってところかな? 干渉型に近い魔法のようだけど……。リサナ君、ミリナ君の魔法はどんなものなんだい?」


「すいません会長。ミリナの種器は見たことあるのですが、魔法までは知らなくて。ただ本人の口から創造型の魔法とは聞いてましたけど……」


 対象に直接影響を与える干渉型と物体や生物を生み出す創造型。


「干渉型であれば海から遠ざければいいかもしれないが……」


 創造型ということなら何もない所からあの怪物のような海洋生物を生み出せても不思議ではない。

 海風に揺れる翡翠色の髪、その隙間から覗かせるティアナの鋭い瞳が変異した生物を洞察し、考察する。


「養成施設時代に嘘をつくような子ではないだろうから創造型と言っていたのならそうなのだろうね。だがわざわざ釣るようにあの怪魚を呼び出したのだから何かしらの条件を設けているのだろう」


 となれば創造型魔法のセオリーは少々崩れているはず。

 おそらく無から生み出すのではなく、本当の生き物を母体に怪魚を創造し操る魔法。

 となれば魔法発動時の魔力消費は少なく、無から有を生み出すわけではないので完全創造型の魔法と比べて研ぎ澄まされた集中力や高い想像力は必要なさそうだ。


 それと同時に、召喚の際は釣りあげて作り変えるという工程がどうしても発生する。

 海辺がホームグラウンドということは、彼女にとって海、あるいは川や池など水生生物の生息する環境は必須と考えるべきだ。


「なら注意すべきはミリナ君が直接釣り上げたもののみだな」


 ティアナは砂浜を強く蹴りミリナとの距離を詰める。

 ミリナの意思に従い、怪魚が割るように浜の砂を巻き上げながら飛んで来る。

 躱すのは容易だが後ろに控えるリサナの負担を軽減するため、且つまだ一体しかいない怪魚を無力化するためにぐっと地面を踏みしめて、


「よいと!」


 怪魚の鋭い歯を砕かんばかりのアッパーを決める。

 鋭く、早く、それでいて衝撃が音となって伝わるほどの移植で拳を振り上げ、怪魚はそれこそ釣り上げられた魚のように身を捩じり天を仰ぐ。


 感触は上々。

 仮に倒せないにしてもミリナとの距離を詰めるには十分な時間を稼げたはず。

 そう確信したティアナの方を射抜くように釣り針が一閃する。


 目の端で捉えたティアナは顔を引いてそれを躱すも、その釣り針はミリナの種器のものでそのまま海へと伸び、新しい怪魚を釣り上げる。

 

 鋼のような輝きを放つ鏃のような頭とそこから伸びる筋肉質且つしなやかな十本の触手。

 これもまたイカというには金属的で大きく、こんなものが実際に海に生息しているとなればこのリゾート地に遊びに来る人はいないだろう。


 そのイカ型の巨大生物がティアナに向かって手数の多い触手を伸ばす。

 時に捉えるように、時に刺すように緩急をつける。

 大きいせいか予備動作は大きく、動き自体は読みやすいものの手数の多さにティアナは回避に努めた。


「こんなものを呼び出すなんて――そんな激しい触手であんなことやこんなことをするつもりなのかい? エロ同人みたいに!!」


「会長、真面目にやってください……」


 防戦一方というには余裕な雰囲気のティアナにリサナは呆れるばかりだった――――。


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