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第六十六話「凍てつく闘志」

 殺気や警戒心が飛び交う中、一人だけお祭り気分のように楽し気な笑みを浮かべるティアナ。

 彼女は全員のひり付いた視線を確認する。


「よし、皆やる気十分だね。では諸君、計画通りに……散開!」


 ティアナは海風やさざ波の音が響き渡るこの場所でも十分に聞こえるクラップ音を響かせる。

 事前に打ち合わせしていた通りにサラ達は行動を始める。

 

 初手、アリシアとサラが敵から逃げるように、でも逃げ切らない程度に距離を取る。


「あ、待てこらぁ!!」


「ちょっと!」


 すぐさまアリシアとサラを追うノクティスとリーリス。

 だがすぐさま進路を塞ぐクレアとメイリー。


「おっと、アンタ達は行かせないわよ」


「……」


 したり顔のクレアと久しぶりの実戦に緊張しているのかやや表情の固いメイリー。

 二人の障害にノクティスは苛立ちを隠せない。


 その様子を見て、フローレンスとガルディアが別の方向からアリシア達を追うも、当然ながらイリスとリーナが道を塞ぐ。


「くっ、お邪魔ですわね……」


「ガルたちの邪魔しないで!」


 下唇を噛むフローレンスと子供のようなふくれっ面を見せるガルディア。


「悪いがそれは無理な相談だな」


「とっとと片付けるわよ」


 そんな二人に対峙するイリスとリーナはやや不満そうにしながらも計画通りに進路を塞いだ。

 この二人がやや不満げなのは理由がある。

 それは人選だ。


 相手の人数が同数であること、ティアナが撤退の指示をしないこと、ティアナがその場でそれぞれの相手を決めない判断を下した時に実行する作戦。


 アリシアとサラはまず距離を取る。

 この作戦を実行するとき、敵は応化特性のことを知っている状態なので当然サラを追ってくる。

 サラのパートナーをアリシアにしたのは合同訓練でサラと授吻していたのがアリシアだったからだ。


 応化特性――適応進化を持つサラは一番新しく授吻した相手をパートナーにしたときに力を発揮する。

 なので必然的にアリシアがパートナーとなった。


 次いでクレアとメイリー。

 ティアナが誰が誰を相手取るか指定しない時、その判断はクレアに任せると言った。

 敵の力量を把握する目利きの訓練ということ。


 アリシア達を追う敵の内、力量の高い方をクレアとメイリーが妨害をする。

 残った方はイリスとリーナが相手をする。


 やや単純な計画ではあるが、ティアナにとってこの実践はあくまで訓練の一環として見ているようだ。

 

 クレアのパートナーにメイリーを据えたのは総合的な力量を判断してのもの。

 クレアの安定的かつ確たる実力と、やや実力にムラがあるメイリー。

 対して実力はあれど安定しないイリスと、シースとしての実力は抜きんでているリーナを組ませることで総合的な力量を調整する。


 イリスはサラと、リーナはアリシアと組みたがっていたが、そこはやはり応化特性のアドバンテージが大きすぎる。

 

 というわけで、イリスとリーナは組みたかった相手ではないので不機嫌になっているというわけだが、それでも与えられた役割は全うしなければならない。


「おいリーナ、アイツらぶっ飛ばしてあの会長に一泡吹かせてやるぞ」


「もちろんよ。ここでちゃんと実力を示してアリシア姉様のパートナーに相応しいのは誰かあの会長に思い知らせてあげるんだから」


 私怨むき出しの二人にフローレンスとガルディアは困惑するしかできない。

 それでもこれから殺す相手を目の前に、スイッチを切り替える。


「滑稽な方々ですね。いいでしょう。先に貴女方を始末して差し上げます」


「ガルやるです!!」


 フローレンスとガルディアは授吻を始める。

 戦闘とは縁遠い貴婦人のような純白のドレスのフローレンスと、日焼けした褐色の肌と獣のような鋭い瞳、野生児のようなボサボサの黄色い短髪のガルディア。

 

 そんな対象的な様相の二人が唇を重ねる。

 少し身長の高いフローレンスがやや下を向き、ガルディアの身体を抱き寄せる。

 ガルディアはその小柄な体をフローレンスに寄せて魔力を流し込む。

 フローレンスは優雅に、ガルディアはやや荒っぽく舌を絡ませる。


 そんな二人の授吻——つまりは戦闘準備にイリスとリーナも体を寄せ合う。

 少し前のイリスならサラ以外のシースと授吻することに抵抗感があったものの、この二週間である程度の抵抗感はなくなった。

 だがまだリーナやメイリーに対してのみだが。


 体を寄せ合い、敵と同様に口を合わせる。

 イリスのまだ拙い授吻にリーナが先導するように唇を重ねる。

 魔力とともに熱や吐息が混ざり、温もりや漏れる声は海風に流される。


 

 そして双方授吻を終えると、イリスとフローレンスは戦闘態勢に入った。


種器(シード)――氷鉞(ヘイル)!」


 イリスの手に海風に揺れる冷気と魔方陣が展開される。

 氷のように透き通った水色の柄、下端は槍のように鋭く先端が尖り、もう片側には鍬のような刃と鎌のような刃がT字に広がっているピッケルのような形をしている種器を魔方陣から取り出した。


種器(シード)――凍鏡(フリーズ)……」


 静かに、それでいて確かな殺気をフローレンスは解き放つ。

 等身大ほどの大きめな魔方陣が浮かび上がりフローレンスはその魔法陣に手を入れる。

 重厚な感触を確かめて、フローレンスは自らの種器を取り出した。


 両手で抱えるそれは見た目は巨大な盾。

 上部は丸く下部は尖った凧型の巨大な盾。

 普通の盾と異なるのがフレームは重厚そうな金属製に対し、盾の大半を占めるガードの部分が鏡で出来ているということ。

 硬いもので一突きすればすぐに割れてしまいそうだが、種器である以上そう単純なものではないはず。


凍停姫(スタグネイトリリー)――フローレンス、いざ参ります」


 盾使いとは思えないほどフローレンスの好戦的な威圧感に、イリスは初めての実戦ということも相まって緊張が全身を縛り身構える。

 それでも副会長のため、サラを守るために戦うしかない。


 イリスは一度深く深呼吸をして、その緊張を闘志に変える。


「上等……シース含めて冱てさせてやるよ」


 イリスは自信に笑みを浮かべて種器を構える。

 訓練とは違い、敵は本気で殺しに掛かってくる。


 されども、イリスの顔に恐怖というものは微塵も感じさせなかった――――。


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