第六十四話「開戦」
私用がバタバタしてて更新止まっていましたが、一息ついてまた更新できそうです。
それでは続きです。
前回までにあらすじ。
強化合宿中のサラ達。
そこでリサナ副会長を姉と慕うミリナが現れた。
ミリナは一級指定犯罪組織ラミアに組しており、サラとイリスの情報を人質にリサナを勧誘する。
リサナはサラとイリスを守る為、約束場所である浜辺へと向かうのだが――――。
朝日が顔を出して空は明るくなれど、早朝であることに変わりなく人の動きは少ない時間帯。
それでも変わらず潮風と波は広い砂浜に響き渡る。
そこに相対する二人は、対照的な表情をしていた。
色素の抜けたような白髪がメッシュのようにやや白みがかった青髪の中に一部分見られる少女は嬉しそうに微笑み、潮風に揺れる長い橙色の髪の少女は曇りきった表情。
「約束通り来てくれたね、リサ姉。ま、信じてたけど。それで、一緒に来る気になった?」
「ミリナ……。約束通り、サラさんやイリスさんのことを話さないのであれば、私はラミアに組するのも構いません。ですがもしお二人のことを他に話せば、この命をもってでも、貴女を……殺さなければなりません。それが今の私に出来るせめてもの償いであり誠意です」
「当たり前だよ。リサ姉との約束を反故にするわけないじゃん。でもリサ姉と一緒に死ねるならそれもありかもって思っちゃう」
恍惚とした笑みを浮かべるミリナに、リサナは恐怖とともに戸惑う。
自分の知るミリナの像と、現状の歪に壊れたミリナの像。
その差異、違和感に自分自身も歪んでしまいそうになる。
「それでこれからどうするんですか? お仲間の所にでも連れてってくれるのですか?」
「そんなことする必要はないよ。なんならすぐ近くまでみんな来てるし」
「近くに? ――っ!?」
リサナは咄嗟に後ろに飛び引く。
リサナが立っていた足元、砂浜に突き刺さる二本のナイフ。
刀身が砂で埋もれるナイフの角度から投擲位置を把握してその場所を確認する。
そこには六人、いやよく見ると七人の影があった。
「ほう、今のを躱すとは確かにただのシースじゃねえな。ホワイトリリーの副会長とはいえ、所詮箱入り娘の集まりだと思ってたが、実力は十分みてーだ」
目元を仮面で隠した黒髪の女性が挑発するように笑う。
随分な挨拶にリサナは警戒心を強める。
敵意はあれど殺気はない。
ナイフの投擲角度からして殺す気はなかっただろうが、それでもひりつく緊張は拭えない。
「ミリナ、あれがお仲間ですか? あまり歓迎されてるように思えませんが」
「あーノクティスは気性が荒いというか乱暴というか。あれでも結構リサ姉を評価してるんだよ。ほら、ツンデレってやつ、っと」
「ミリナ、オメエ殺されてえのか?」
ミリナはにこやかにノクティスから投げられたナイフを躱す。
「危ないなー。ま、こんな感じで仲良くやってるよ」
「ナイフの投擲が戯れの日常なのは仲がいいのか怪しいものですが。それに全員、相当な手練れのようですね」
「じゃあ紹介するね。まずあの仮面の人はノクティス。一応あたし達のリーダーだよ」
リサナは再度、全員を注視する。
ノクティスと呼ばれるナイフを投げてきた仮面の女性。
長い黒髪、青白い肌、仮面の奥に見せる淡い銀色の瞳。
紺色のローブと、仕込んでいるであろういくつかの投擲ナイフ。
投擲技術の精度や気象の粗い性格、現状の魔力量からして中遠距離系の魔法を使うブレイドだと推測。
「その隣がリーリス。リーダー補佐ってところかな」
その隣、波打つ金髪に深紅の瞳を湛えた女性。
黒いドレスに薄いヴェール、そして多くの装飾品がその優美さを引き立てていた。
魔力の感じと余裕そうな感じはシースだろうか。
「あそこのゴーグルの子がエレクトラで、エレクトラが背負って眠りこけてるのがスカーレットだよ」
灰色の短髪と額に上げたゴーグル、動きやすい格好からして見た目だけはブレイドのように思えるが、感じる魔力量と彼女が背負う女性の眠りながらも滲み出る威圧感に飲まれている感じからシースの線が濃い。
そして眠っているとは思えない迫力の女性。
鮮やかな血のような赤い長髪、閉じられている切れ長の目、スリットの入ったドレスと羽織っている赤黒のコート。
彼女の圧力はシースから出せるものでは到底ない。
自分の目が確かなら、彼女がこの集団で一番実力のあるブレイドと推測、いや確信する。
「んで、向こうにいるお嬢様みたいなのがフローレンスで、その対照的な雰囲気の子がガルディア」
高貴に巻き上げた白銀の髪、氷のように透き通る水色の瞳。
純白のドレスはさながら貴婦人のようで、犯罪組織はおろか戦えるようにも思えない。
そしてその隣で座り込む少女は、日焼けした褐色の肌と獣のような鋭い瞳、野生児のようなボサボサの黄色い短髪。
確かに対照的で、感じる魔力量からはフローレンスがブレイド、ガルディアがシースのようだが、外見の情報だけでは逆のように感じ取れる。
「で、一番端の子があたしのパートナーのルシフェリア。あたしをラミアに紹介してくれた子だよ。まー恩人であり親友ってところかな」
浅黄色の髪と深紅のマント。
ミリナのパートナーなのだからおそらくシースなのだろう。
そして、ミリナを引き込んだ張本人。
こういう出会いでなければ仲良く出来そうな雰囲気だが、ミリナをラミアに引き込んだと聞かされると敵意を抑えることが出来ない。
仲間たちがミリナの側へと移動する。
ブレイドが相手にいる以上、これほどまでに近づかれればもう逃げることは不可能だ。
そんな状況が、緊張緊迫を増長させる。
「さて、一通り紹介が終わったわけだけど、リサ姉の方ももちろん紹介してくれるよね? どうせ来てるんでしょ?」
ミリナの見透かした視線にリサナはたじろぐ。
お互いの手の内を読み合う心理戦。
ここからはリサナにとっても予測不能。
なぜなら長年連れ添ってもなお予測不能の乱入者が来るからだ。
「わっと――」
リサナの背後から頭上すれすれで飛んで来た球体に、ミリナとその仲間は飛び引いて回避する。
衝撃に砂が舞い上がり、海風に乗せられて砂煙はすぐに流れた。
突然の飛来物、地面に半分くらい埋まったボールをノクティスが睨む。
「一体なんだ……」
ノクティスがリサナの背後を睨む。
ボールを飛ばすという突飛な攻撃手段をするのは一人くらいだ。
「なんだかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「副会長の離反を防ぐため」
「友との絆を守るため」
「情と誇りの正義を貫く」
「キューティーマーベラスな騎士様」
「ティアナ!」
「サラ!」
「海辺を駆けるホワイトリリーの我らには」
「ビックウェーブ渦巻く希望が待ってるぜ」
「「「「「…………」」」」」
「おっとみんなの番だよ?」
「ちょっと打合せ通りやってくれないと会長に乗ったあたしがバカみたいじゃん!」
「サラ君ちょっと酷くないかい!? ノリノリだったじゃないか!?」
ミリナの仲間達と対照的に、ギャーギャーと騒々しい登場。
振り向くまでは安堵の目だったリサナが、再びミリナ達に視線を戻したその時は心底面倒そうで。
「あのへんな連中がお前らの仲間か?
ノクティスが呆れた目で言うと、リサナはやや冷えた声で答えた。
「いいえ、他人です」




