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第六十三話「影」

 朝日が顔を出そうと東の空がほんのりと藍色に滲み始めた時間帯。

 リゾート地とは思えない陰鬱とした雰囲気のエリア。

 そこは新規エリアとして開発中の施設で、観光客はもちろんのこと工事関係者しか立ち入れない区域。

 

 ホテルとしての外装は出来上がっているものの中はまだまだ工事中の建物のロビーとなる場所。

 時間的にも本来誰もいないはずのその場所に人影が揺れ動く。


「結局、収穫は無し…… “アイ”の情報力も落ちたものだな」


 椅子に腰かけて、そう吐き捨てる一人の女性。

 薄暗い建物に溶け込むような黒髪と、不気味さを醸し出す青白い肌。

 深い紺色のローブを纏い、目元が仮面で隠れているが淡い銀色の眼光が暗闇の中で光る。


「イライラしても仕方がありませんよノクティス。いくら客層が絞られていると言ってもこの島に何人いるとお思いで? これほどの少人数、加えて探索系の魔法や特性を持たずに探すのは極めて困難。 “アイ”の情報が正しかったとしても見つかっていないだけかと思います」


 冷静に諭す、緩やかに波打つ金髪の女性。

 黒いドレスに薄いヴェールを纏い、煌びやかな装飾品が目立つ。


「リーリスさん、今のノクティスさんに正論言うのやめてくれません? トバッチリ食らうの僕なんすから」


 ノクティスの鋭い眼光から逃げるように後ずさるボーイッシュな少女。

 動きやすい格好の、灰色のショートヘアに額に上げているゴーグルが特徴的だ。

 

「エレクトラ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。ところで、スカーレットはどうしたの? 一緒じゃなかったかしら」


「スカーレットの姉貴ならそこで寝てますよ」


 リーリスに尋ねられ、エレクトラは部屋の端にあるソファーで寝ている女性を指さす。

 赤い髪がソファーから垂れ落ち、スリットの入ったドレスと羽織っている赤黒のコートが寝返りを打って皴が出来ている。


「フローレンス只今帰還致しました。やはり収穫はゼロですね。もうこの島にはいないんじゃないですか?」


「疲れたー。ガルもうしんどい!」


 コツコツと靴音を響かせながら暗闇から姿を現す女性二人。

 一人は白銀の髪を高貴に巻き上げて、白いドレスが闇夜に映える。

 もう一人は日焼けした褐色の肌にボサボサの黄色い短髪が粗暴さを醸し出している。


「フローレンス、ガルディア。お帰りさなさい。そちらもダメでしたか。あとはルシフェリアとミリナが収穫無しなら全滅ですね」


 リーリスが結果に嘆いていると二人の影が闇から現れる。

 一人は深紅のマントを羽織った浅黄色の髪が揺れる少女。

 そしてもう一人は色素の抜けたような白髪がメッシュのように一部分見られる少し白みがかった青色の髪の少女。


「ただいまー。エレクトラなんか飲み物ない?」


「ルシフェリアさんお帰りっす。水で良ければ僕のバックに入ってますけど……」


 深紅のマントから手を出してエレクトラの荷物を漁るルシフェリアにリーリスは進捗の確認を取る。


「ルシフェリア、それでどうです? 何か有益な情報はありましたか?」


「んー。こっちは収穫無しかな。ただミリナの方が変なんだよね」


「ミリナが?」


 眠りこけるスカーレットを除く全員が、帰って来たばかりのミリナを見る。

 やや浮かれているような様子のミリナに全員が疑問に思う。


「ミリナ、何かあったのですか?」


「んー、何でもないよ。ただちょっと知り合いに会っただけー」


「お知り合い? まぁいいです。お二人も収穫ゼロであれば当初の予定通り今回は撤退――」


「あーそれなんだけどね。ちょっと待ってほしいかなーって」


 普段従順なミリナが珍しく意見を言って、全員が目を丸くした。

 ややイラつき気味なノクティスは、その銀色の鋭い瞳でミリナを睨む。


「計画を変更すにはそれに足る理由が必要だ。ミリナ、この場の全員を説得してみせろ」


「ちょっと待ち合わせしててね。みんなにも紹介しようかと」


「テメェの知り合いか? 個人的な事情で危険な目に合うのはごめんだ。これ以上の滞在は騎士連中の目につく」


 ノクティスの血気盛んな睥睨に、それでもミリナは飄々と続ける。


「確かに紹介したいのは知り合いだよ。でもあくまでそれは餌。本命がかかる為のね。鯛を釣る為の海老ってところだよ。まーあたしは海老の方が好きだけど」


「分からん。分かりやすく話せ」


「ごめんだけどちょっと約束があって詳しくは話せないんだー。ただ紹介したい人が待ち合わせ場所に来る。けれど、その人はあくまで餌。本命がかかるためのね 。まーあたしを信じてよ」


「納得はいかんが、それだけ言うってことはリスクに見合った成果を出す自信があるってことだな?」


「もちろん」


 ミリナの曇りなき瞳にノクティスはさっきまでの不機嫌とは打って変わって、不敵な笑みを浮かび上がり立ち上がる。


「お前ら、計画変更だ。ミリナ、その知り合いとやらの情報を話せるだけ話せ」


 朝の光が薄暗さをかき消す頃、その施設には人影はおろか、誰かがいた痕跡すら奇麗に消えていた――――。

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