第六十二話「ティアナ会長の推測」
訓練開始から二週間が経とうとしていた。
ブレイド組との合同訓練も組み合わせつつ、この過酷な訓練にもようやく慣れてきた。
初日はついていくのがやっとだったけど、今では一日を終えても普通で居られる。
魔力矯正剤もとい魔力安定剤の電気もここ数日浴びていない。
これは確実に成長したと言ってもいいはずだよね。
だからもう……ほんと勘弁してください。
「――リサナ副会長!? まだ三十分経ってませんか!?」
「……えっ!? あ……」
あたしが声を上げると、リサナ副会長は珍しく慌てふためく。
魔力を放出と練り上げを同時に行う訓練。
魔力操作の訓練に合わせて、魔力葯に負荷を与えて潜在魔力量を上げるこの訓練は、想像以上に集中力と精神力、気力と体力を持っていかれる。
相当の使い手なら二時間以上、学園を卒業した騎士なら一時間程度、学園生徒なら三十分出来ればなかなからしい。
「あ、すいません。止めて大丈夫です」
そう言われてあたしは訓練を中断して、全身に来る倦怠感と脱力感に立っていられず倒れる。
あたしだけじゃなくメイリーも座り込むほどで、リーナは流石というか、肩で息をしているものの立っていられるみたい。
「すいません。予定より十五分も長く続けてましたね。リーナさんはもちろんですが、サラさんとメイリーさんも途中で倒れていませんのでこの時点で実力はトリプルペタル以上と言っても過言ではありません。お疲れ様です」
焦りを隠すように総評に入るリサナ副会長。
その態度に違和感を持っているのはあたしだけじゃない。
「副会長、何かあったんですか?」
メイリーが訪ねた。
リサナ副会長の様子がおかしくなり始めたのはミリナちゃんに会ったあの日からだ。
「もしかしてミリナちゃんと何か……」
「いえ、そんなことはないですよ。ミリナとのわだかまりも解消出来ましたし。おそらく疲れてるんですかね。少し休んできますので自主練していてください。教えるべきは教えていますのであとは反復だけかと思います」
少し速足で去っていくリサナ副会長。
その姿は疲れているというよりこの場から逃げるように感じた。
こんな時は――――、
「――と、いうことがありまして」
「教育係が教育を放棄するとは、リサナ君もやんちゃになったじゃないか」
あたし達三人はブレイド組と合流して、ティアナ会長に相談する。
ティアナ会長は子供の悪戯エピソードを聞いたときのように微笑む。
やはりその余裕はあたし達の心配や不安を払拭していく。
首から下が砂浜に埋まっているこの状況じゃなければ凄さも感じられるんだけどなー。
「あの……何してるんですか? 反社会的な勢力に制裁でも受けてるんですか?」
「ん? あーこれかい? アリシア君達はルーティン訓練していてね、少し時間が出来たので砂浴しているところだ。なかなかに気持ちい良いよ。三人もどうだい?」
「ティアナ会長、砂浴は縦に埋まらないです……」
「そうなのかい? ならそろそろあがろうか。よっと……おや……三人とも丁度良かった。出るの手伝ってくれないかな……」
どうやって埋まったんだろうこの人。
三人で必死にティアナ会長を掘り出した。
体中の砂を払い、身体を伸ばすティアナ会長。
「まあ安心したまえ。私はリサナ君と付き合いが長い。ここ最近の変化には気が付いている。その原因も大体予想がついている」
「やっぱりミリナちゃん関係ですかね?」
「十中八九そうだろうね。リサナ君は芯が強く、自分の意見をしっかり持っている人だ。そんな彼女が一人で抱え込むということは、私達くらいの付き合いでも話せない事情ということ。ミリナ君との過去については話てくれた。では、ミリナ君関係でリサナ君が話せない事情とは何か? サラ君、答えたまえ」
「え、あたしですか!? ……愛の告白とか?」
「ユニークな答えだね」
この反応、多分違うな。
「間違ってるなら間違ってると茶化さないで言ってくれますか?」
「すまない、そんなつもりはなかった。まー愛の告白ならリサナ君の性格上その場で答えを出して上手く対処するだろう。ここまで長期的に引きずるとは考えにくい。私の推測では、ミリナ君は何かしらの犯罪組織と関わりを持っている。そしてリサナ君が私達に話さないということは、おそらくミリナ君は組織に組みしている側だ」
「そんなことあるわけ……マジですか?」
あたしのミリナに対する印象は、人懐っこくて良い子という一言に尽きる。
そんな彼女が犯罪者というのは想像しにくい。
「でも、仮にそうでも会長くらいには相談するんじゃないでしょうか?」
ティアナ会長の推理にリーナが異議を唱えるも、ティアナ会長はそれすらも論理に組み込んでいるようで、
「そこがミリナ君が犯罪組織に加担しているという推測の理由さ。私とリサナ君はほとんど包み隠さず関わることのできる関係だと自負している。この自信が過信ではないとき、リサナ君が私にすら秘密にしているのは外的要因、あるいは精神的要因があるということさ」
「……外的要因と精神的要因?」
おっと、なんか難しい話になって来たとあたしは首を傾げた。
「外的要因――つまりは魔法や特性によって言動を制限されている状態。まーリサナ君なら上手く私に伝えることができるだろう。精神的要因――これは脅しや監視による言動の制限。私の推測はこちらが優勢かな。この二週間、リサナ君に猶予が与えられているということはリサナ君に何かをしてほしいということ。だがこの二週間、思い悩んでいることはあっても何か行動を起こしている様子はない。それはつまり要求はリサナ君次第でどうでも出来るということ。それらを踏まえたうえでいくつか思いつく想定シナリオのうち、最有力候補は題して――『リサナ君NTRシナリオ』!!」
勢いよく言うティアナ会長に、メイリーは小首を傾げ子供のような曇りなき眼であたしを見る。
「……サラちゃん、NTRって何?」
「ティアナ会長! メイリーに変なこと吹き込まないでもらえますか!?」
「要はミリナ君がリサナ君を勧誘している状態ということだよ。脅し文句としてはリサナ君が来なければ、もしくはこのことを他の人に話せば我々に危害を加えるというところだろうね。いくら私といえど未知の魔法では対処は後手になる。ミリナ君が人質に取られているというせんもなくはないが、リサナ君を狙うという点ではミリナ君が勧誘しているという線の方が濃いだろう」
「でも……もしそうだとしたらリサナ副会長はどうするつもりなんでしょう?」
「さあね。それにリサナ君の言動を縛っている方法が確定しない以上、私達も何もすることが出来ない。時が来るまでね」
「時が来るまで……ですか?」
ティアナ会長の中には明確なプランがあるのか、自信ありげに頷いた。
「私の推測が正しければ必ずリサナ君はもう一度ミリナ君と接触する。それも明日くらいにね。そこに私も混ざり迅速に問題を解決すれば済む話さ。作戦名は――『リサナ君3P作戦』!!」
勢いよく言うティアナ会長に、メイリーは再度小首を傾げ子供のような曇りなき眼であたしを見る。
「……サラちゃん、3Pって何?」
「ティアナ会長! メイリーに変なこと吹き込まないでもらえます!? ホントマジで!!」
そうして翌日――ティアナ会長の推測通りリサナ副会長は姿を消した。




