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第五十九話「スーパーウルトラグレートスペシャルプレミアムアルティメットデラックスジャンボアイスパフェ」

 波乱万丈のアスレチックを終えて、あたし達はのんびりプールを楽しんでいた。

 浮き輪に体を預け、流れるプールのされるがままに流されていた。


「うぃ~どんぶらこ~どんぶらこ~」


「完全にくつろいでるねサラちゃん」


 浮き輪に手を乗せて、流されるあたしに追従するメイリー。

 温水のプールと水の浮力で揺れる浮き輪は最高のベッドで、このまま眠りに落ちてしまいそうだ。


「それにしてもアリシアさんの罰ゲームってなんだろうね」


「さ~」


 アスレチックの罰ゲーム。

 負けたペア、つまりはあたしとティアナ会長は、勝ったペアであるアリシアとリサナ副会長の言うことを一つ聞かなければならない。

 アリシアがあたしに出した罰ゲームはまた後日ということだった。

 それはルール違反だと抗議したけど、それでは仕方がないと渋々出した罰ゲームが蛍光ピンクの全身タイツでこの施設を徘徊するというものだった。


 もちろんあたしは後日の方を選んだ。

 さすがに蛍光ピンクタイツで徘徊はしたくない。ていうかなんでそんなもん持ってるんだ。

 

「まーあんなことにならないように祈るだけだよ」


 あたしはティアナ会長とリサナ副会長の方を見る。

 デッキチェアに座ってくつろぐリサナ副会長。

 そしてその隣で立つティアナ会長が、デッキチェアの傍にあるテーブルに買ってきた飲み物を置く。


「お待たせしましたこちらトロピカルジュースです」


「誰が人の言葉を許可しました? 貴女は今日一日私の忠実な犬ですよ。返事は?」


「わ……ワン!!」


「よろしい」


 自由人ながらもカリスマ性と威厳があったティアナ会長が情けなく映る。

 そのあまりの犬っぷりに耳と尻尾まで見えてきそうだ。


「リサナ副会長……普段振り回されてて相当溜まってたんだろうなー」


「副会長楽しそうだねー」


 明日は我が身になるかもしれないと分かっていつつも、どこか他人事のようにメイリーと眺めていた。

 そんなのんびりな時間を過ごしているとやがてお昼時となった。

 この施設には飲食店が多くあって思わず目移りしてしまう。

 

 みんなはイートインスペースで昼食を取っているなか、あたしとイリスは抜け出してとある店に来ていた。


「お待たせいたしました。こちらスーパーウルトラグレートスペシャルプレミアムアルティメットデラックスジャンボアイスパフェになります」


「は~きたきた! これだよこれ!」


 目の前に置かれたそれにテンションが上げる。

 一人くらい座れるくらいの大皿に盛られた山盛りのアイスと果物。

 見た目のインパクトも十分だけど、そこに詰め込まれた素材達の組み合わせも一級品だ。

 

 歓喜するあたしをイリスは呆れるようにため息をついて見ていた。


「ついて来てって言うから来てみたら目的はこれかよ。なんだその頭の悪そうな食いもんは」


「雑誌で見て食べてみたかったんだ~。量が量だから初めての人は最低二人以上じゃないと食べられないし」


「そ、そうか……。まー他の奴らがいる中でオレを連れて来たのは悪い気はしないな」


「だってティアナ会長とリサナ副会長には頼みづらいし、クレアはどっちかと言うと辛党だし、メイリーは小食めだし、リーナはアリシアにべったりだし。残るはアリシアとイリスだけど、アイス食べるならイリスかなーって」


「消去法かよ……」


 何故かがっかりするイリス。

 そんなイリスの反応を不思議に思いながらも一口目を口に入れた途端、頭の中はパフェのことで一杯になった。

 クリーミーでくちどけの良いアイスの濃厚な甘さと果物の酸味が絶妙で、食べ進めるとグラノーラのザクザク触感で口が飽きない。


 あたしは別に生粋の甘党でもなければ大食漢でもないけど、衝動的な食欲も相まってすぐに半分をたいらげてしまった。

 あまりの食いっぷりに一緒に食べるイリスのスプーンは止まっていた。


「お前、そんな食うキャラだったか?」


「魔力安定剤の影響なのか訓練の影響なのか、なぜかめちゃくちゃ糖分を求めちゃうんだよねー」


「シースは魔力制御に結構気力を持っていかれるって言うし、そういった意味では頭が疲れてんのか? それでもそんな状態になってる奴は見たことねーけど。……太るぞ」


「うぐっ……」


 イリスに言われて順調だったスプーンが止まる。

 

「だ、大丈夫だよっ! また明日から動き回るし! それに多分あれだよ! あたしの場合この年になっていきなり魔力を扱いだしたから体がエネルギーを欲してるんだよきっと! 体が慣れればこの食欲も収まるから!」


 イリスにか自分にか、そんな言い訳を捲し立てる。

 だけど苦し紛れの言い訳が意外と的を射ていたようでイリスは納得していた。


「なるほど。お前の場合、階段じゃなく壁を登ろうとしてるようなもんだから魔力消費に体が追い付いていないわけか……」


「納得しちゃうんだ。でも、あたしみたいな境遇の人っていなかったの? その人も同じような状態になってたんならあたしのこの状態も説明がつくんだけど」


「んーあんまり聞かねえな。そもそもお前の立場は中々稀有なもんだからな。まず他国にいる時点で少数だし、居たとしても正体は隠してる。正体がバレれば内部の手引きでもない限り殺されてるしな。正体がバレて国外脱出出来た例が少ない」


 それを聞いてあたしは今更ながらの疑問が思い浮かんだ。

 といってもその疑問を解消する術は今はないため、引き続き目の前のアイスに集中した。

 

 爆発的な食欲と中毒的な糖分への欲望に自分でも驚きながら、結局八割方あたしがアイスパフェを食べてしまった。

 そのあまりの食いっぷりに周囲の視線が冷たく刺さる。アイスだけに。


 それでも、その視線はすぐさま別の個所に向けられる。

 ガラガラと食器が落ちる音が響いて、あたしを含めて全員の視線がそっちに向いた。

 

 そこのはテーブルに座る六人と、転んだのか空の食器を地面に落として膝をつく店員がいた。


「危ないじゃない。どんくさいわね」


「ちょっとやめてよー。アタシの所に皿飛んで来たんだけどー」


 転ぶ店員を嘲るように笑う六人客。

 状況が分からずあたし達は不安げに見守った。

 だけどここによく来ていた客にとってはこの光景は今日が初めてじゃないようで、


「またよ。あの子もかわいそうに……」


「わざと足かけてたわよね……」


 そんなヒソヒソ話を聞くに、あの六人客はちょくちょくいろんな店の人に嫌がらせをしているようだ。

 けれどこの施設に客として来れるということはそれなりの立場の人間。

 店側は面倒事を恐れて大事にしていないようで、それが余計に調子に乗らせたのか、最近では怪我人が出ることも稀にあるとか。


「も、申し訳ありませんお客様。すぐに片づけますので」


 苛立ちと恐怖が入り混じる複雑な表情を浮かべながらも店員は散らばった食器を片付ける。

 プール施設ということもあって割れるような食器は扱っていないので、ガラス片で怪我をすることはない。

 けど転んだ時に擦りむいたのか膝には僅かに擦った跡が残っている。


 膝をついて地面に散らばる食器を集める店員に、その六人客の一人が何を思ったのか水の入ったコップを手に取り、その店員の頭にかけようとして――――、


「ちょっと待って!!」


 居ても立っても居られず、あたしは這いつくばる店員を庇うように六人客の前に立っていた。

 突然横入されて、水をかけようとしていた女性は驚き、そして不機嫌そうにあたしを見る。


「何、あんた?」


「それはこっちのセリフです。今、何しようとしてたんですか?」


「どんくさい店員にはお灸をすえないといけないでしょ? 何、文句でもあんの?」


 正直めっちゃ怖い。

 でもここで臆してはダメだと自分に言い聞かせて負けじと睨み返すと、癪に障ったのか女性は手に持った水をあたし目がけてかけようとして――、


「――なっ!?」


 水がかかると思って思わず目を閉じるあたしは、女性の驚く声を聞いて恐る恐る目を空ける。

 白い冷気で包まれて中の水が冷たく凍ったコップが、女性の手のひらにべったりと張り付いている。

 何が起こったのかしっかりと目を開けると、不機嫌に眉を寄せるイリスが女性の後ろから肩を組むように腕を回していた。


「ダセェことしてんじゃねえよ」


「冷っ、痛い! あんた、誰に手を挙げたか分かってんの?」


「はっ、知らねえよ。あんまりイラつかせんな」


 腕を回すイリスから冷気があふれて、女性の肌が徐々に青白くなっていく。


「あ、あんたの魔法、攻撃性的に日常使用の認可もらってるように思えないんだけど!」


「あーオレのこれは魔力が暴走した結果であって魔法じゃねぇ。こうしてる内にも魔力が乱れて人一人くらいならかき氷にしてしまうかもなー」


 徐々に冷気が強くなるイリス。

 さすがに恐くなったのか、女性は苛立ちを残しつつもその場を離れることを優先させる。


「ちっ、悪かったわよ。行くわよみんな」


 冷たくなった部分を摩りながら、その客達は帰っていった。

 

「ありがとうイリス。助かったよ」


「ったく、考え無しに突っ込むんじゃねぇよ」


「でもイリス、あんなことして大丈夫だったの? 大事にならない?」


「あ? 大丈夫だろ。ここに来れるくらいだから金はあるんだろうが、アイツら自体は体つきとか仕草的に軍人じゃねえ。どうせ身内の権限振りかざしてるだけだ。仮に文句言われたとしてもホワイトリリーの生徒相手にするほどのリスクは取らねぇよ」


「そっか。ならよかった。あ、大丈夫ですか?」


 思い出したかのようにあたしは店員に声をかける。


 動きやすいシンプルな水着に上着を着て、この施設のロゴが入ったキャップをしている店員。

 後頭部で束ねられた髪。

 やや白みがかった青色の中に、色素の抜けたような白髪がメッシュのように一部分見られる。


 見た目的には歳はそう変わらなさそう。

 なんなら少し年下くらいかな。


「あ、ありがとうございます。すいません、お客様にご迷惑をかけてしまって」


「いえいえそんな。勝手に首を突っ込んだだけですので」


「さすが未来の騎士様ですね。私が姉さんと慕う人もホワイトリリーに在籍してるんですけど、やっぱり勇敢で凄いです」


「へぇ~お姉さんがホワイトリリーに……」


「まー何年も会ってないんですけどね。今頃何してるのか……」


「……ちなみに誰かって聞いても?」


「リサナって人なんですけど……確かホワイトリリーで副会長をしてるとか」


「……マジで」

「……マジか」


 その名前を聞いて、あたしとイリスは思わず目を合わせた――――。


 

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