第五十七話「プールだぁ!!」
「諸君! 準備はいいか!!」
「うぉお!!」
生徒会執行部のティアナ会長の声に、あたしは全力で反応する。
これは別にティアナ会長に気を使ってるわけじゃない。
目の前に広がる光景に、あたしもまた興奮してしまっている。
ユリリア国の南にある島――アステル。
島の形が五芒星のような形をしていることから名付けられたその島は、日の光で輝く海と白く澄んだ砂浜、生い茂る緑に果実、温かく過ごしやすい気候が人気のリゾート地だ。
浮き輪やゴーグルなど、見る限り遊びに行く格好のティアナ会長は海――ではなくアステルにある屋内レジャー施設アクアパークに向かって走っていく。
それにあたし達も全力でついていく。
「さぁ、この後のお決まりは分かっているかな?」
「もちろんですとも会長!!」
ハイテンションのティアナ会長に、ハイテンションの返事で返した。
他のみんなはついて来てはいるものの一歩引いた感じだ。
みんなはこの状況でなんでそんな冷静でいられるのか不思議だ。
室内に響く賑やかな音楽と流れるプールの音、室内で温かい空気とともに漂う消毒された香り。
あたしの委員会給料を基準にすれば何年もお金をかけてようやく遊びに行けるような場所のレジャー施設だ。
ならば楽しまなければこの施設に失礼ってものでしょ!!
あたしとティアナ会長は更衣室を出た瞬間、思いっきり飛び跳ねて叫ぶ。
「「プールだぁーーーー!!!!」」
ウォータースライダー、流れるプール、いろんな出店などなど。
屋内といえどとてつもなく広い施設にある多数のプールは、全部遊びつくそうと思うと時間も体力も全然足りない。
しかも簡単に入れないリゾート内の施設なだけあって混雑しているわけではなく、適度な賑わいなのでストレスは少ない。
「さぁ今日は正真正銘楽しむ日だ!」
いつも通りのテンションのティアナ会長。
金色のラインが入った翡翠色のハイネック水着。
腰のパレオが動くたびに靡く。
「これだけいろいろあると本当に悩みますね会長!」
一日目は指定された動きやすい水着を着ていたけど、今日は遊ぶための水着を着ている。
この日のためにメイリーと買いに行った水玉模様の入ったビタミンカラーのビキニを着て、あたしも浮かれ気分だ。
「サラちゃん待ってよー」
フリルの付いたパステルカラーのビキニを着たメイリーの可愛さは、あたしが男の子なら速攻でナンパしてお持ち帰りしたくなるレベルだ。
ていうかお持ち帰りしたい。
「なかなか良い所だね」
その後ろに出てきたのはアリシアだ。
深いネイビーを基調とした高貴なデザインのハイネック水着。
背中は大胆にカットされていてとてもセクシーだ。
「さて、今日は遊ぶわよ」
ぐっと体を伸ばしながらクレアも出てくる。
鮮やかな赤色に黒のラインが入ったセクシービキニはシンプルながらに大人っぽさを感じさせる。
「待ってくださいアリシア姉様」
やや急ぎ足でリーナも出てきた。
ビビッドカラーをベースに黒のラインが入ったスポーティーなレーサーバック型の水着は、リーナの活発さを引き立たせている。
「ったく、お前らほんと元気だな」
少し気怠そうにイリスも更衣室から出てくる。
ジップアップデザインを取り入れたメタリックカラーのトップスと奇麗な足が強調された短めのボトムスでボーイッシュさとセクシーさが上手く混ざり合う。
「皆さん、あまり羽目を外すと怪我しますよ」
最後にティアナ会長に押し付けられたであろう荷物を持ったリサナ副会長が出てきた。
ドレッシーなオフショルダービキニは、肩を露出させるも上品な印象を与え、ゴールドのアクセントが入った濃い橙色は、優雅な雰囲気を醸し出す。
みんな奇麗な肌でスタイルも良いから水着のオシャレさに負けることがない。
あたしが男の子だったら眼福ものだろう。
いや性別関係なく眼福ものだ。
「では体力がある内にあれに興じようではないか!!」
ティアナ会長が指さしたのはプールの上にいくつものアスレチックが並ぶ施設。
何人か挑戦しているけど、途中で障害物に阻まれて派手にプールに落ちている。
「まー我々にとっては準備運動にしかならないだろうが、プールに入る前の余興にしては中々良いだろう。せっかくだから罰ゲームを設けようか。一番遅い人は一番早い人の言うことを一つ聞くというのはどうだろう?」
「会長、それではブレイド組が有利では?」
「ふむ、ならばブレイドとシースの二人一組で行こうか。勝ったペアは負けたペアになんでも一つ、言うことを聞くということで。こんなこともあろうかとくじを用意してたのだよ。さすが私!」
ティアナ会長は4本ずつ、棒状のくじを握ってあたし達に差し出す。
「ブレイドの三人は右手の、シースの四人は左手のくじを取りたまえ。先端の色が同じ人がパートナーだ」
あたし達は言う通りに従う。
左手のくじを手に取り、ふと視線を右隣に移すと、
「アリシア姉様とペア……アリシア姉様とペア……」
祈願を超えてもはや怨嗟のような呟きを漏らしながらリーナはくじを握る。
これ、あたしがアリシアとペアになったらリーナに殺されるんじゃ……。
そう思うほどの迫力がリーナにあった。
「それではせーのでくじを取りたまえ。せーのっ!」
ティアナ会長の合図であたし達はくじを引く。
それぞれ色を確認した。
「赤! アリシア姉様は――赤!! ったぁ!!」
リーナは自分とアリシアのくじの色を確認して飛び跳ねるほど喜んでる。
ただ疑問なのはあたしも赤ということ。っていうか全員赤だ。
「どゆこと?」
全員が困惑する中、ティアナ会長が進める。
「よし、紅色は私とサラ君、緋色はアリシア君とリサナ君、茜色はクレア君とリーナ君、猩々緋色はイリス君とメイリー君だ」
「もうちょっと分かりやすい色分けにしてくれません!?」
とまあ無事にペア決めも終わり、アスレチック施設に向かう。
「八名様ですね。ビギナーコースとエキスパートコースとありますがどちらにしますか? エキスパートコースは難しいですがやる人が少ないのでほぼ貸し切りですよ」
「ほぅ、貸し切りならエキスパートコースにさせてもらおうかな」
出来ればあたしはビギナーコースがいいです……とは言えず、エキスパートコースに案内された。
見た感じ普通のアスレチックみたいだけど、挑戦者が少ないのかあたし達以外に人はいない。
「それでは準備はいいかな?」
あたし達はスタートの構えに入る。
最初のアスレチックは隙間の空いた足場にジャンプで渡るだけのもの。
確かに一つ一つの足場の距離は結構空いてるけど、日頃訓練してるあたし達にとっては難しいものじゃない。
「それでは――スタートッ!」
「ぐふぉっ!?」
ティアナ会長のスタートの合図。
刹那、衝撃がティアナ会長を起点に広がってあたしは吹き飛ばされた――――。




