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第五十三話「海だぁ!!」

「諸君! 準備はいいか!!」


「うぉお!!」


 生徒会執行部のティアナ会長の声に、あたしは全力で反応する。

 これは別にティアナ会長に気を使ってるわけじゃない。

 目の前に広がる光景に、あたしもまた興奮してしまっている。

 

 ユリリア国の南にある島――アステル。

 島の形が五芒星のような形をしていることから名付けられたその島は、日の光で輝く海と白く澄んだ砂浜、生い茂る緑に果実、温かく過ごしやすい気候が人気のリゾート地だ。


 浮き輪やゴーグルなど、見る限り遊びに行く格好のティアナ会長は海に向かって走っていく。

 それにあたし達も全力でついていく。


「さぁ、この後のお決まりは分かっているかな?」


「もちろんですとも会長!!」


 ハイテンションのティアナ会長に、ハイテンションの返事で返した。

 他のみんなはついて来てはいるものの一歩引いた感じだ。


 みんなはこの状況でなんでそんな冷静でいられるのか不思議だ。

 遠くから聞こえる賑やかな音楽とさざ波の音、温かい空気とともに漂う海の香り。

 あたしの委員会給料を基準にすれば何年もお金をかけてようやく遊びに行けるような場所だ。

 ならば楽しまなければこの島に失礼ってものでしょ!!


 あたしとティアナ会長は砂浜に足をつけた瞬間、思いっきり飛び跳ねて叫ぶ。


「「海だぁーーーー!!!!」」


 あたしとティアナ会長の歓喜の叫びも、透けて輝く海の音で消えていく。

 着地すると砂浜の熱がサンダルを通して伝わってくる。


「いやーサラ君、君はノリがいいね。うちの副会長にも見習って欲しいものだよ」


「いやーそれほどでも」


 会長はあたしと肩を組んで高らかに笑う。

 燦燦と輝く太陽に照らされたティアナ会長の水着姿は海の存在感に負けないくらい絵になる。

 そしてそれはみんなも同じだ。


 アリシア、クレア、メイリー、リーナ、イリス、リサナ副会長。

 美人が揃うユリリア人の中でも、騎士を育てるホワイトリリーによる日々の訓練で引き締められたスタイル抜群の彼女らが水着姿で佇む姿はとても華やかだ。


「見たまえ諸君! 海の香りが漂う砂浜! これは走るしかないだろう! なぁサラ君!!」


「はいティアナ会長!」


 ティアナ会長が浜の砂を巻き上げながら走り、あたし達もそれについていく。


「見たまえ諸君! この光り輝く海! これは泳ぐしかないだろう! なぁサラ君!!」


「はいティアナ会長!!」

 

 ティアナ会長は飛沫を上げながら海を泳ぎ出し、あたし達もそれについていく。


「見たまえ諸君! この実り豊かな大木を! これは登るしかないだろう! なぁサラ君!!」


「は、はい会長!!」


 ティアナ会長は猿のように果実の成る木を登りだし、あたし達もそれについていく。


「見たまえ諸君――――」


「は……はい、会長……」


「見たまえ諸君――――」


「ちょ、会長?」


「見たまえ諸君――――」


「休憩が欲しいです会長ぉ!!」


 気が付けば夕方。

 あたしは少し冷めた砂浜に大の字になって寝転ぶ。

 全身に疲労感が蓄積され、少しでも多く酸素を求めて肺が収縮する。


 そうなっているのはあたしだけでなく、メイリーやリーナもまた倒れるまではいかなくても膝に手をついて肩で息をしており、アリシア達ブレイド組も余裕がなさそうに呼吸している。

 ティアナ会長とリサナ副会長は数秒息を整えると平然と立っている。


「いやー初日の訓練にしては中々楽しかっただろう?」


「はぁ……はぁ……これ、訓練だったんですね。てっきり超ハッスルな娯楽なのかと……」


「初日はまだ気分が高揚しているだろうから、遊びに見せかけた訓練を行ったわけなのだよ。一日目は体力作り、二日目はブレイド組とシース組に分かれて技術的な訓練、三日目はせっかくのリゾート地を堪能する日。これをひたすら繰り返し心技体を鍛え上げるというわけさ。諸君分かったかな?」


 正直返事する気力すらない。

 もっとキャッキャと遊べるものかと思ってた。

 少しでも気を抜けばこのまま眠りについてしまいそうだ。

 

「それではホテルに戻るとしようか。なんと今回! 天然露天風呂付全員相部屋の大昼間を用意した! さぁ温泉に卓球、枕投げに恋バナと興じようじゃないか!! 今夜は寝かせないぞ☆」


「すいません、今日は寝させてください…………」


 学生らしいイベントに普段なら楽しみなんだろうけど、今のあたしはとりあえず寝たい。

 何とか重い体を持ち上げてホテルに辿り着いた。

 

 ホテル街から少し外れた場所。

 薄暗くなった今の時間に暖色の明かりがともされ、木造の建築にレンガとはまた違う黒く重厚な雰囲気の石材が並べられた屋根と深い軒、奥から少し刺激的で温かい独特な香りが漂ってくる。


「エネミット王国の東側にはケラススという独自の文化を持った国がある。向こうでは旅館と呼ばれる施設がこのホテルさ。ケラススには一度行ったことがあるが、あそこは中々に良い所だった。目新しいものばかりでそれはもう刺激的なものだったさ」


 当時の記憶を辿り思いに耽るティアナ会長。

 自慢げにその時の話を話し始めるも、疲れているあたし達は会長を無視して中に入っていくリサナ副会長に続いた。


 ガラガラとスライド式の扉を開け、扉の前に頭くらいの高さまで垂らされている布を避けながら入る。

 木造建築の中、豪奢というよりは謙虚、煌びやかというよりは趣がある雰囲気。

 入って来たあたし達を仲居さんは両膝をついて迎え入れた。


「お待ちしておりました。お部屋のご用意は出来ております故、ご夕食までのお時間おくつろぎくださいませ」


 部屋に案内されたあたし達は疲れて飛びそうな意識が一時的に覚醒する。

 八人で泊まるとしても少し広いくらいの大広間。

 イグサを編みこんだような床には、薄いクッションが乗せられた足のない椅子と低めのテーブルが置かれている。


「一時間後にお食事をお持ち致します。何かありましたらお申し付けください。それでは失礼致します」


 最初から最後まで低い姿勢のまま仲居さんはその場を離れる。

 あたし達は部屋の隅に荷物を置いて座り込む。

 畳と呼ばれる床の硬すぎず柔らかすぎない感触が伝わり、床に落ちるように体の疲れがどっと来る。


「あぁ~……やば、このまま寝ちゃいそう」


「ダメだよサラちゃん。ほら立って、お風呂行こ」


「うぃ~」


「ほら、しっかり立てって」


「だらしないわね」


 メイリーとイリスはあたしの腕を引っ張って連れて行く。

 気の抜けた返事とともにメイリーとイリスに連れて行かれるあたしにリーナはやや呆れていた。


「私達も汗を流そう。せっかくの食事はさっぱりしてから頂きたいしね」


「そうね……あー風呂風呂」


 あたし達にならって、アリシアとクレアも準備を進める。

 

「私達も行きましょう、会長」


「ふむ、よし! ならばみんなで背中を洗いっこしよう! リサナ君、日頃の疲れをこの私が癒してあげよう」


 指をうねうねと動かしながら近づくティアナ会長にリサナ副会長は額を小突いて制止させる。


「日頃の疲れの八割が貴女が原因ということをお忘れなく」


「またまた~。リサナ君は素直じゃないな~」


 リサナ副会長の辛辣な本音をティアナ会長は冗談と受け取っているみたい。

 主従のようで、親友のようで、姉妹のようなこの二人の関係は、少し微笑ましく思えてきた。


「ちょっと待って!? お風呂に入るってことは、みんなでお風呂に入るってこと!?」


 疲れた脳で気付いたあたしは思わず声を上げた。

 当然周りは当たり前でしょという反応だ。


 だけど、みんなでお風呂に入るってことは――――みんなでお風呂に入るってことなのだ!!


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