第四十八話「二股がバレたみたいな修羅場」
ダブルペタル試験に落ちたものの、そんなショックも薄れてあたしの気分はとても軽い。
それはあたしだけに限らず、他の生徒もどこか浮かれている。
それもそのはず、もうすぐ長期休校だからだ。
前期と後期の間にある大型の休み。
実家に帰る人もいれば、その間学園で勉学や修練に励む生徒もいる。
あたしはというと、帰る実家もないから適当に学園をぶらついたり委員会の仕事をしたり、別のバイトもしてみようかと考えたり。
みんなと遊ぶ予定も考えとかないとね。
休暇は一か月だけど、そう考えると予定で一杯になりそうだ。
授業後の委員会活動も終わり、あたしも帰り支度を終わらせる。
荷物をまとめて席を立つと、
「「サラ!」」
ほぼ同時、二つの声が教室に響く。
教室にある二つの扉。
前方の教壇側の扉にはイリス扉に手を置いて立っている。
銀髪のウルフカットが夕日でほのかに赤みを帯びて、いつものように不機嫌そうに眉を寄せて鋭い目があたしを見ている。
対して後ろの扉には腕を組んでクレアが立っていた。
クレアも委員会終わりなのか、左腕には風紀委員の腕章をしたままだ。
サイドテールの緋色の髪が夕日でほのかに暗く見え、力強い眼光をあたしに向けている。
二人とも自分の声と被ったお互いの存在を確認すると、やや速足であたしの所にやって来た。
そして互いに気を遣うことなく、我先にと声を出す。
「「サラ、休校中の予定は? ――――はぁあ?」」
まさかのセリフもかぶり、二人はなぜか睨み合う。
「あん? 誰だお前?」
「それはこっちのセリフよ。サラにアンタみたいな知り合いいたかしら?」
「オレはサラとダブルペタル試験でパートナーになったイリスだ。次のペタル試験では合格しなきゃいけねえから長期休校の日程を今から組んどかねぇといけねぇんだ。用事があるなら今度にしてくれ」
「あーアンタがイリスね。アタシは交流訓練でサラとパートナーになったクレアよ。煉燦姫と名乗った方が認知しやすいかしら? 交流パーティーでは委員会の仕事で参加できなかったから個人的に慰労会をしようって前から話をしてたのよ。順番的にはアタシが先じゃない?」
「先輩……交流訓練の慰労会なんてもう組むことないんだから必要ねえだろ。煉燦姫なんて言われてる秀才様はオレ達みたいなダブルペタルにすらなれない落ちこぼれなんて眼中にないだろうからお引き取りしてくれね?」
ピシッと凍てつくような冷たい視線をイリスは飛ばした。
「後輩なら後輩らしく先輩に敬意を払いなさい。寛大なアタシは席を外してなんて野暮は言わないから、サラとの話はアタシが先よ。それに同じブレイドならアタシと一緒の方がサラも何かと勉強になるかと思うけど?」
チリチリと焼けるような雰囲気でクレアは返した。
「図々しいかつ大人げないな。先輩なら先輩らしく後輩に譲ることを覚えた方がいいと思うが? それとも後輩に余裕も見せれないほど焦ってるなら煉燦姫も大したことねぇな」
「へえ……喧嘩を売ってるなら買うわよ? 今なら訓練所も空いてるだろうし、シースはサラしかいないから魔法無しの単純な戦闘になるけど。ハンデぐらいつけてあげてもいいわよ?」
「いらねえよ。こちとら魔法に難があって単純な実力でやりあってた身だ。先輩のプライドをへし折ってしまわないか心配なくらいだぜ」
「じゃあ勝った方がサラを好きにしていいってことでいいわね?」
「上等。サラはオレのだ」
勝手に決めてるけどあたしの意見は!?
一触即発の雰囲気。
獣の如き鋭い眼光が互いを見据えてバチバチと火花を上げているみたい。
あたしが原因ではあるみたいだし、二人はあたしの友達だから止めたいけど、龍と虎の喧嘩に割って入れるほどあたしは肝が据わっていない。
ていうかなんで二股がバレたみたいな修羅場に立たされてるのあたし!?
あわあわと狼狽えるあたしと違い、この現状を一瞬で切り裂く勇者が一人。
「血気盛んに談笑中の所すまないが私が先だ」
戦闘モードの二人は横入りされた相手に食って掛かろうと睨みつけるが、その存在を認識すると一瞬で悪戯を親に見つかった子供のように誤魔化しに引きつった表情を浮かべる。
「アレクシア先生!?」
「なんでここに!?」
二人が委縮してしまうほどに強く威圧的な眼と異論を一切受け付けない雰囲気のアレクシア先生が二人の間に割って入り、あたしに高圧的な視線を飛ばす。
「サラ、ついてこい。拒否権はない」
普段から恐い顔をしているけど、今回はどこか怒りというか苛立ちというか、とにかく良くない感情が滲み出てる気がした。
何かやらかしたかと記憶を辿るけど思い当たる節はない。
「まさか!?」
成績不振+ダブルペタル試験失格=退学。
最悪の方程式を導き出したあたしはアレクシア先生にしがみ付く。
「先生! 退学だけは!! 退学だけは勘弁してください!!」
「何を分けわからないこと言ってるだ? 退学なんかさせん。分かったらしがみ付くのをやめて大人しくついてこい。グズグズしてると退学にするぞ」
え、違うの?
アレクシア先生の一瞬で矛盾した脅しを聞き流し、とりあえず最悪の事態ではないことに胸を撫で下ろす。
でもそれだと本当に何かが分からない。
とりあえずすでに踵を返してどこかに行こうとするアレクシア先生についていくことにした。
クレアとイリスを教室に残したまま、あたしはアレクシア先生についていくと、アレクシア先生は教室を出る手前で何かを思い出したように足を止める。
「あ、そうだ。クレア、イリス。丁度いい。お前達もついてこい」
アレクシア先生に呼ばれて、クレアとイリスはきょとんとお互いに目を合わせる。
そこにさっきまでのギスギス感は一切なく、あたし達三人は大人しくアレクシア先生についていった――――。




