第四十七話「試験後、職員室にて」
ダブルペタル試験も無事に終わり、生徒はもちろんのこと教師陣も肩の荷を下ろした。
とはいえ、教師の方は事務的な後処理が残っているので楽になるのはまだ先の話だ。
試験が終わり次の日の夜。
生徒達は寮へと帰り学園は静寂に包まれているが、職員室の窓から薄く光が零れる。
教師もほとんどは帰宅している中、一か所だけ明かりがついて資料を読み込む教師がいた。
鋭い目つきで資料を見つめ、垂れてくる黒い髪を耳にかける。
「アレクシア先生~お疲れ様です~」
そんな仕事モード全開のシングル、ダブルペタルブレイドの担当教師の一人であるアレクシアは、後ろから聞こえた力が抜ける声に資料を机に置いて振り返る。
そこには両手にコップを持った、シングル、ダブルペタルブレイドの担当教師の一人であるクリスタが立っていた。
胡桃のような明るい茶色の髪も、教室の影の中では黒に近い色合いになる。
明かりで照らされているところからいきなり陰に目をやったために一瞬誰なのか判別に困ったが、そのまったりとした口調と優し気な声からアレクシアはクリスタを認識する。
「なんだクリスタ。まだ帰ってなかったのか?」
「いや~帰ろうと思ったんですけど~明かりがついてたんで様子を見に来たんですよ~。はいこれコーヒーです~」
「あーありがとう」
受け取り、アレクシアは角砂糖を大量にぶち込む。
「前から思ってたんですけど~砂糖入れすぎじゃないですか~? 本来の味が消えちゃいますよ~。昔から甘党だったけど~最近は心配になるレベルですし~。キャラ的にもブラックの方が似合いますよ~」
「頭を使うとどうしても甘いものが欲しくなる。キャラで言うならお前の方こそ甘党な見た目して甘いの苦手だろ。人のこと言えんな」
アレクシアは砂糖を大量に溶かしたコーヒーを口に流し込む。
甘く優しいホットなコーヒーが流れ込み、すっと頭が冴えてくる感覚になる。
「ところで~ダブルペタル試験の資料読んでるんですか~?」
「ああ。事務処理は終わってるが気になることがあってな」
「あ~イリスちゃんとサラちゃんのことですか~?」
「魔法複合計画の事実上最高傑作。解花状態の力は確かに大輪七騎士に届き得る可能性がある」
「ま~気にかけてた子が花開いて良かったじゃないですか~」
「そうだな。サラがイリスの縛りを取り払ったことで解花に至った。思いの力というのは面白いものだな」
「ほんとうに~そんな小説みたいなご都合展開あると思ってるんですか~?」
「本当に思ってたらこんな時間まで居残りしてない。アリシアの試験時に見せた超回復、交流訓練の時に見せた魔力の上書き、そして魔力制御が苦手なイリスの解花化。ウルカに可能性は示唆されてたとはいえ、いざ実際にここまで条件が揃えば現実逃避もしたくなる」
「イリスちゃんの解花も~魔法複合計画を表沙汰に出来ない以上誤魔化す必要がありますし~そこに来てですからね~。このことを知ってるのは~ほかにいるんですか~?」
「お前と私、学園長、あとはウルカとパートナーのミルフィだ。交流訓練の一件以降、教師陣は信用できない。とはいえ、もう少し秘密を共有できる戦力が欲しい。護衛をするブレイドはもちろん、アイツを指導出来る実力のあるシースが必要だ」
「てなると~やっぱりティアナちゃんとリサナちゃんじゃないですか~?」
「やはり生徒会長と副会長になるよな……」
クリスタの人選にアレクシアは頷きしつつも不満げな表情を浮かべる。
「リサナはともかく、ティアナは苦手なんだよな」
「え~面白くて良い子じゃないですか~」
「面白いねぇ……」
アレクシアの気苦労のこもったため息が、静かな教室に零された――――。




