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第三十五話「居ていい理由」

 というわけでパワープレイ。


「とりあえずペタル試験のパートナー、あたしとイリスさんで登録しておいたから。あ、これ美味しい」


「…………はぁ!?」


 昼休憩、一緒にご飯を食べてるイリスさんに伝えた。

 正確には学食で一人食べてるイリスさんの前に勝手に座っただけだけど。


 バタンと机を両手で叩いて立ち上がるイリスさん。

 机の揺れで目の前のスープが少しこぼれたけど、そんなの気にもせず丸くした目をあたしに向けて固まった。


「おまっ、そんな勝手な。それに本人の承諾がないと受理出来ないだろ?」


「アレクシア先生に渡したら簡単に受理してくれたよ」


「ちっ、あの先公余計なことを……」


「イリスさんはペタル試験をきっかけに退学になろうとしてる。それって今すぐ出ていく用事はないってことだよね。で、あの感じじゃ誰とも組む気はない。あたしもパートナーが必要だし。なら別にいっかなって」


「いっかなってそんな勝手に……。オレと組んでも得なんて……」


「それってあたしの心配してくれてる?」


 イリスさんは調子が狂わされたのか目をそらして黙り込む。


「大丈夫。あたしもなるべく丁寧に魔力を練るし、自信がなかったら授吻しなかったらいいだけ。ね、あたしを助けると思って協力してくれない?」


 両手を合わせて頭を下げる。

 イリスさんは数秒困った後、観念したようにため息をつく。


「何があっても知らねぇからな」


「うん!」


 というわけでパートナー問題は無事なんとかなりました。

 めでたしめでたし。


 と、思っていたけど――――。


「きゃぁああああ!!!!」

「ちっ!」


 叫ぶあたしと舌打ちするイリスさんは全力で市街地を駆けていた。

 市街地と言っても学園西部にある市街地エリアこと第一演習所。

 第三演習所同様に広大なエリアで家屋や商店街などが乱立し、損壊エリアと非損壊エリアに分かれている。

 あたし達が走り回っているのは非損壊エリア。

 さっきまで普通に人が住んでいたんじゃないかと思えるくらいに街がリアルに再現されている。

 誰に追われてるかって?

 同じペタル試験を受けている生徒です。


 試験の内容は三日間のサバイバル。

 それぞれ与えられた任務を完遂し、三日間生き延びれば合格。

 あたし達に与えられた任務は三つ。


 一つ、怪我人(を想定した人形)を三体以上保護。

 二つ、特定場所に保管されている文書の奪取。

 三つ、任務指令書の保護。


 もちろん他の受験者は異なる任務を与えられている。

 現に今あたし達を追ってきてる受験者はあたし達の任務指令書が目的らしい。


 攻撃の手が緩いのはここが建物を可能な限り壊さないよう行動しないといけない非損壊エリアだから。

 だから何とか逃げて一旦隠れることが出来た。


「ふぅ~一時はどうなるかと思ったね」


「そうだな。お前が開始早々エイエイオーなんて叫ばなければ見つかることはなかったけどな」


「それに非損壊エリアだからあんまり荒っぽい追撃も受けなかったし。こっちを選んだあたし偉い!」


「そうだな。基本的に最初は非損壊エリアに集まりがちだから乱戦になりやすいけどな」


「避難した後って設定なのか家屋には食材とか調理器具とか置いてるし拠点作り出来るね」


「そうだな。任務内容はこっちから行動しないといけないものばかりだから拠点に戻れるか不明だけどな」


「誠にすいませんでした!!」


 必死に正当化しようと思ったけど観念してイリスさんに土下座する。

 

「勝手にパートナー組んでおいてこの体たらく。イリスさんだけでも合格出来るよう頑張るから何でも言ってください」


「いや、この試験に片方だけ合格とかないから。それにしてもこういう戦略的な知識が皆無って、養成施設出てねぇのか?」


「あーうん。あたし、ついこないだまでエネミット王国に住んでたから」


 イリスさんにあたしの今までを話した。

 エネミット王国時代のこと、アリシアと会った時のこと、この学園に来た時のこと。

 最初はあたしの自分語りを面倒そうに聞いてたけど、次第に相槌や軽い質問も返って来た。

 

「……お前も大変だったんだな」


「そうだね~。だからあたしもここに来た目的とか、これからやりたいこととかないんだー。でも、せっかく出来た友達とこれからも一緒にいたい。強いて言えばこれがあたしの今頑張る理由かな」


「良かったな。続ける動機があるだけで何をすればいいか見えてくる。オレには無理だ。一緒にいたいなんて友達もいないし。むしろオレが消えて喜ぶ奴の方が多いしな」


「そんなことないよ」


 自重気に笑いながら目を逸らそうとするイリスさんの顔を両手で挟んで無理やりこっちに向ける。

 視線を合わせて、視界にあたししか映らないように顔を寄せる。


「ここに逃げてくるまでの間、イリスさんがあたしを庇ってくれてたのは何となくわかる。本当に試験に落ちる気ならそんなことする必要なんてない。それって、イリスさんの中で少なくともあたしを合格させようとはしてくれてるってことでしょ?」


「ちがっ、あれはお前が危なっかしいから見てられなかったからで」


「はいはいそれでもいいよ。あたしが言いたいのは少なくとも今この場において、イリスさんには目的が出来たってわけ。要は目的とか意思とか、今はなくてもこれから見つければいいんだよ。友達がいない? イリスさんが消えて喜ぶ? 少なくともここに一人、イリスさんと合格したいと思ってる人がいるよ!」


 イリスさんが本当に出ていきたいのならあたしに止めることは出来ない。

 イリスさんが欲しているのはホワイトリリーに居ていい理由。

 なら一時的にあたしがその理由になってやる。

 その上で辞めるならそれがイリスさんの意思で、その時は尊重するしかない。

 でも自らの意思で出ていくのと、周りに流されて出ていくのでは全然違う。


 イリスさんは唖然としながらも、顔を挟むあたしの両手を払って逃げるように歩く。


「お前、よくそんな恥ずかしいセリフ出てくるよな」


「恥ずかしい言うなし! こちとらノリと勢いで話してるんだから。後から羞恥心に苛まれるのは覚悟してるんだい!」


「何度も言っとくけど、オレといて不幸なことに巻き込まれても知らねぇからな」


「安心して。現状の失態を見ればあたしの方が疫病神だから!」


「いや一つも安心出来ねぇよ」


 任せなさい言わんばかりに強く胸を叩いたあたしを、イリスさんは呆れながらも笑ってくれた。

 ちょっとは心を開いてくれたと思うことにしよう。

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