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第三十話「パーティー当日」

 広大なパーティー会場。

 数えるのも億劫になるテーブルの数とそこに並べられた料理の数々。

 楽団の演奏と会場の喧騒が賑やかに入り混じる。


 御伽噺の世界のような光景を目の前に、あたしはメイリーに選んでもらったドレスを着て立ちすくむ。

 正直ここまで規模の大きいイベントに参加するのは初めてで、右も左も分からないあたしは立っていることしか出来ない。


「あ、サラちゃん!」


 グラスを片手に固まっているあたしを見つけるや否や、メイリーが人混みをすり抜けて駆け寄ってくれた。

 さながら親と合流出来た迷子の子供と同じような安心感だ。

 明るい杏子色の髪はパーティー用にセットされ、普段から愛らしい美顔も化粧によってもはや国宝へと仕上がっていた。

 落ち着いた色合いのベージュのドレスも、華やかなメイリーが着ることで統一感のある見た目に仕上がって、つまり何が言いたいかって言うと超絶綺麗!


「大丈夫?」


「え!? あ、うん。めっちゃ綺麗だな~と思って」


「もうサラちゃんったら。サラちゃんも似合ってるよ」


「あたしには超絶優秀なコーディネーターがついてるんで」


「まぁね~」


 ドヤるメイリーも可愛い。

 

「それにしても大規模なパーティーになるとは聞いてたけど、こんなに大所帯だとは……。これダンス踊るスペースある?」


「まぁ時間になるとテーブルは幾つか撤収されるみたいだし、途中で帰る人もいるみたいだからダンスの頃には結構減ってるらしいよ」


「そうなんだ。あたしも変なしがらみが無かったら適当に帰るのに……」


「そんな綺麗な格好しているのにもったいないわよ」


 思わず深い溜息を吐いたあたしに声をかけたのはクレアだった。

 その声を聞いて、クレアのドレス姿はさぞ似合うのだろうと思っていると、クレアは普通にいつもの制服で参加していた。

 左腕には風紀委員の腕章、強いて言えば少し祭典用の装飾が施されているくらい。


「クレアはドレスじゃないんだ」


「アタシは風紀委員の仕事があるから。これだけ大きい行事だとトラブルも多いのよ。だから残念だけど一緒に踊ったりは出来ないわね」


 クレアはとても残念そうにしていた。ダンスが好きなのかな?


「じゃあまた別日にお疲れ様会しよう!」


「それってつまり二人で――――え?」

「みんな誘ってどこかで――――え?」


 あたしとクレアの会話のタイミングが被って一瞬気まずい空気が流れる。

 ここはあたしが譲ろう。


「あ、ごめん。今何て?」


「……何でもないわよ! 楽しむことね! じゃあ!!」


 不機嫌そうにクレアさんは去って行った。

 なんか気に障ったのかな?


「そういえば肝心のアリシアとリーナは?」


「アリシアさんならあそこにほら」


 メイリーが指さした方向には、会場の人混みが特に密集している所があった。

 その中心部に綺麗なブロンドの頭頂部が僅かに見える。


「これってアリシアの誕生パーティーかなんかだったっけ」


「アリシアさんは人気だからねー。自然と人が集まるんだよ」


 あれじゃ近づこうにも近づけないな。

 まぁ事情は既に話してるし、タイミングのある時に話しかけよう。


「じゃあリーナは?」


「そういえば見てないね。遅れてくるとは考えづらいし、アリシアさんの人混みの中じゃないかな?」


「彼女なら休みよ」


 その声を聞いて、あたしの面倒事センサーはびんびんだ。

 ド派手なドレス、浅葱色の髪はパーティー用にセットされて、あたしみたいな芋娘とは桁違いの気品を醸し出しているリリスが、この自分に都合の良い状況に笑顔を隠さずそこにいた。

 ただそれよりも、


「リーナが休み……なんかあったの?」


「さあ? 受付に確認したら欠席って言ってたわ。まぁ珍しい事じゃないし、体調が悪いとかじゃない? 運は私に味方したようね」


 体調不良なら仕方がないというよりも納得がいかないというのが本音だ。

 あれだけ威勢よく宣戦布告しておいて、あれだけ負けず嫌いなくせして、あたしを巻き込むだけ巻き込んで、その結果がこれ?

 リーナのアリシアに対する思いはその程度なの?

 

「さ、例の勝負とやらはリーナの不戦敗。なら煌輝姫シャイニングリリーとの間を取り持ってもらうのは問題なくなったわよね?」


「はぁ……分かった」


 もうリーナのことはほっとこう。

 それより問題は…………


「ただ、肝心のアリシアがあんな状態なんだけど……」


 どうやってアリシアに近づこうか…………。


煌輝姫シャイニングリリーのことだし、貴女が手振ったら気付くんじゃなくて?」


「んなまさか」


 あたしは大振りで手を振ってみる。

 あの人ごみの中、アリシアは速攻で気が付いたようで、適当に周りの人に断りを入れてこっちにくる。


「マジか……」


 もしかしてアリシアってこの会場にいる全員の一挙手一投足を認識出来てるんじゃなかろうか。


「やあ、すまない。君がいることは分かっていたんだけど、なかなか抜け出す機会がなくてね。そろそろ人集りにも疲れた頃だったし、手を振ってくれて助かったよ」


 アリシアの白い柔肌を覗かせる深紅のドレスは、パーティー会場の華々しさを一つの風景にしてしまうほどのインパクトだ。

 そして、アリシアはほくそ笑んであたしを見た。


「似合っているよ、サラ」


「あ、うん……ありがと」


 アリシアの誉め言葉にドキッとしてしまう。

 まぁ多分、誰にでも言ってるんだろうけど。このたらしめ!


「あーそれより、アリシアに紹介したい人がいるの。こちらクラスメイトで友人のリリス。アリシアに会ってみたいって」


 あたしは手筈通りリリスを紹介する。

 もちろんアリシアにリリスの事は既に教えているし、経緯も知っている。


「私はアリシア、サラがお世話になっているようで、私からも感謝するよ」


 いや、あんたはあたしの保護者か。

 アリシアはあたしの密告がリリスに悟られないように、あくまで何も知らない体を装ってくれている。


「お初にお目にかかります。私はサラさんのクラスメイトのリリスと申します。姉が大国軍の大佐を務めており、偉大な姉を持つ者同士、惹かれ合うものがあるかと思いますわ」


「……あぁそうだね」


 ほんの一瞬だけ、アリシアの表情が曇った気がした。

 お姉さんいたんだ。あんまり関係が良くないのかな。


「これからもサラと仲良くしてくれると助かる。もちろん、私ともね」


 アリシアとリリスは握手してその場は解散となった。

 パーティー前に約束している人はいるけど、基本的にダンスの誘いは、曲が流れる三十分くらい前の準備時間に行うのが礼儀となっている。


 アリシアにリリスとのダンスをお願いするまでだいたい一時間くらい猶予がある。

 その間、あたしはめちゃくちゃ暇だ。


 料理は十分楽しんだし、メイリーも他の生徒の顔合わせに行っちゃったし、約束がある以上それまで帰れないし、そろそろこの喧騒に酔ってきたし。


「はぁ~疲れた……」


 あたしはパーティー会場を抜けて休憩室へと向かっていた。

 会場から零れる騒ぎの音を背中で受けて、あたしは少し心の安らぎを得る。

 

 エネミット王国で屋敷勤めしてた時にもパーティーは頻繁にあったけど、あたしは給仕係で裏で仕事してたからこんな気苦労しなかった。

 いざゲストとして参加してみるとしんどいものだ。


「作戦通りね……」


「うん、これで……」


 会場の音は聞こえつつも少し離れた、T字に分岐した廊下の先から聞いたことのある声。

 バレないように角に隠れながら覗き見ると、そこにはリリスさんのトリマキコンビがいた。

 名前は忘れたけどトリマキコンビで覚えてたら問題ないでしょ。


 何やらコソコソと話してるけど、今こそ屋敷勤めでのゴシップ収集で培われた地獄耳を発揮する時!


「でもちょっとやりすぎちゃったかな?」


「大丈夫よ。それに前々から鬱陶しかったし。しばらく不登校だったくせにいきなり煌輝姫シャイニングリリーのパートナーを名乗ろうとするだなんておこがましい」


 もしかしてリーナのこと?


「あのサラって子、聞き分けが良くて良かったわね。もしごねてたらリーナと同じような目に合わせないといけなかったし」


「惨めよね。せっかく用意したドレスが当日になってボロ布になってたんですから」


 つまりリーナが欠席の理由って……。

 あたしはすぐに会場に向かった――――。

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