第二十一話「解花《ブルーム》」
アリシアとメイリーが駆けつけてくれて、絶望的だった状況に希望が見えた。
「アリシア達は何でここに?」
「中々生徒の姿が見当たらなくてね。不思議に思っていたらクレアの魔法が派手に放たれていたから様子を見に来たんだ」
「もしかしてクレアさんが先行投資ってことで派手に魔法ぶっ放してたのって……」
「ええ。アタシが感じてる違和感はアリシアも感じてただろうし、アタシの居場所さえ分かれば様子を見に来ると思ったのよ。ただ予想より遅かったけど」
「それはすまない。魔法を派手に放つのはクレアにとっては珍しいものじゃないから気付くのに時間がかかってしまった」
そういえば敵云々以前に生徒相手にも派手にやってたわ……。
「それで……君がそれほどまでにやられるとは、相手は相当の使い手だね。魔法の検討はついてるかい?」
「アイツの魔法は“干渉型”。あの二本のナイフの場所に瞬時に移動できる。解花は斬った相手の位置に瞬時に移動が出来る。そしてあのナイフの刀身が完全に赤く染まったら何か別の能力条件が満たされる」
敵のナイフは両方ともほとんどの刀身を赤く染めている。
「“干渉型”か……サラ、メイリー、魔力の状態は?」
アリシアに聞かれたけど、意味が分からず咄嗟の返答が出来ない。
「“解花”いけます!」
メイリーが返答する。
なるほど、今どれくらい魔力が練られてるかってことか。
「“解花”がいけるかは分からないけど、出来る限り魔力は練ってる」
基準が分からないからそういう返答しか出来ない。
ん? あたしもメイリーもその状態なら……
「じゃあ、あたしとメイリーでアリシアかクレアさんに授吻したら、“満解”まで行くんじゃない?」
“解花”のその先――“満解”に至ればほぼ勝ちと言っても過言じゃないって言ってたし、それなら一人に魔力を集めた方が良い。
ただ、あたし以外の三人はあまりいい反応を示さない。
「あまり現実的な策ではないな。確かに魔力を合わせる“融吻”という技術は存在する。ただそれは同じメンバーのシースが何年もかけ、魔力の波長を全く同じにしてようやく出来る超高等技術だ。普通は強い魔力に上書きされる。今やったところで片方の魔力を無駄にするだけだ。いくら勝負運の強い私でさえ、そんな賭けは乗りたくない」
なるほど、シースの魔力と言っても十人十色っていう訳ね。
「私が時間を稼ぐ。その間にクレアは授吻を済ませるんだ」
あたし達が同時に授吻したなら、相手はその好きを見逃さない。
「させるかよ!」
「悪いが君の相手は私がしよう」
飛び込もうとする敵に対し、アリシアは光の剣で刺突する。
光の剣はグンと伸びて敵の懐へ。
ただ、相手はクレアさんと接近戦で優位に立ったほどの実力。
遠距離攻撃を難なく躱す。
だけどアリシアはあたし達から離れられない。
今アリシアがすべきはあたしとクレアさんが無防備になる授吻中の護衛。
相手の“斬った相手の所に瞬時に移動する能力”がある以上、アリシアはあたし達の近くで構える必要がある。
必然的に遠距離の攻撃で牽制する形になる。
「時間がない。始めるわよ」
クレアさんがあたしを支えるように腰に手を回す。
身長はクレアさんの方が高いから、あたしは見上げるように少し顎を上げた。
敵がすぐそこにいる緊張感と、クレアさんの凛々しい顔が徐々に近づく緊張感が入り混じり変な気分だ。
「「んっ……」」
クレアさんの柔らかい唇があたしの唇と重なる。
動き回ってクレアさんの上がった体温がより強く感じる。
あたしは練った魔力を全力でクレアさんに流し込む。
あたしとクレアさんの吐息が混じり、重なった唇の僅かな隙間から漏れる。
クレアさんの手はあたしの身体を抱き寄せるように力を籠める。
クレアさんの舌があたしの口内でうねり、反応するようにあたしも絡ませる。
「「ぷはっ……」」
唇が離れると同時、あたしとクレアさんは大きく息を吸う。
するとクレアさんの綺麗な赤い髪が燃えるように光輝いた。
「解花――“炎燦装”」
赤く輝いた髪はチリチリと火の粉を放ち、種器の炎脚は熱気を纏い、さっきまでなかった緋色の片マントがひらりと舞う。
「これが……“解花”」
さっきまでの雰囲気とは全然違う。
クレアさんを纏う熱は空気を焼いてゆらゆらと揺れている。
「反撃開始よ。燃え滾って来たわね!」




