98.隠された公爵家
「とはいえ、私も実は詳しいことは知らされていないのですが」
いきなり腰砕けに引く准男爵閣下。
やっぱりか。
准男爵程度だと役者不足?
「では、出来るところまでお願いします」
「かしこまりました」
准男爵閣下がかしこまった。
ヤバい。
やっぱあれ?
私の正体って。
「マリアンヌ様のお父上は前サエラ男爵だということは皆も知っていると思う」
コレル閣下が始めた。
「だがお母上については知られていない。というよりは秘匿されている。
理由は判るな?」
皆さん、頷いていらっしゃるけど。
知ってるの?
私は知らないのに(泣)。
「とはいえ、マリアンヌ様のお母上の情報自体が隠されているわけではない。
公然の秘密、という奴だ。
知っている者は知っている事実を口にしない」
「それは、その方がとある高貴な方のお血筋ということでしょうか」
サンディ様が聞いた。
どうしてここにいるんだろうこの人。
あまり私に関係ない気がするけど。
「それは『普通の秘密』だな。
問題は、その高貴な方がどなたか、ということなのだが」
コレル閣下はため息をついた。
何か疲れてない?
「正直、私自身も詳しい事は教えられていないのだ。
知らない方が良いような気がしている。
どうも一筋縄ではいかなさそうで」
「それほどですか」
執事の人、何か逃げたそうにしてない?
今のうちだよ?
無理だろうけど。
「お嬢様はご存じなのですか?」
グレースが聞いてきた。
嫌な質問するなあ。
嘘は言いたくないけど。
しょうがない。
「知らないです」
「だが薄々は感じていただろう。
でなければこれまでの行動の説明がつかない」
コレル閣下、追い込まないで(泣)。
「私が知ってるのは母上に何か秘密があったらしいことだけです」
私はそう言って教会長や孤児院の院長に渡された書類の話をした。
これで何とか納得してくれればいいけど。
前世の話なんかしたって混乱するばかりだものね。
「なるほど。
ですが、それにしてもお嬢様は素晴らしすぎます」
グレースが変な方向に向かっている。
勝手に偶像視とか止めてよね?
「それで、その高貴な方とは」
サンディ様が聞いてくれた。
ブレないね。
ありがたや。
「……ここではまだ口には出せないが、これで判るだろう。
『隠された公爵家』だ」
何それ。
いや、公爵家ってのは凄いけど、隠されたって意味不明では。
だがみんなには判ったらしい。
「……何と!」
「それはまことでございますか」
「なるほど。でしたらお嬢様の素晴らしさも納得出来ます」
反応がみんな違うなあ。
執事の人は文字通り仰け反っているし、サンディ様は驚愕。
そしてグレースは歓喜の表情?
大丈夫かよおい。
「……それは、どのような」
つい聞いてしまった。
だって本当に知らないんだもん。
孤児上がりの男爵家庶子、いや令嬢でしかないのよ私は。
エリザベスには調べておけとか言われたけど何をどうやって調べるというのか。
小娘に期待しすぎないで欲しい。
「マリアンヌ様がご存じないのも仕方があるまい。
下世話な話なのでな」
コレル閣下がため息をついた。
いや、下世話なら得意ですが。
「お教えしても?」
グレースがなぜかワクワクしながら聞いた。
コレル閣下が疲れたみたいに手を振る。
嫌気がさしているのかも。




