91.オペラ?
テーブルでは白熱した議論が交わされていた。
最初は貴族令嬢たちだけのお遊び楽隊だったはずなのに、いつの間にか劇場公演が前提になっている。
しかも、ただ曲を演奏するだけじゃなくて歌劇にしようと。
「これだけの曲が揃っているのだ。
しかも物語がある」
「確かに。
何幕でも作れそうですな」
「登場人物も多いし、見せ場もある。
愛と勇気がテーマだが友情も裏切りも挫折も悲嘆もある。
これだけで面白い話が作れそうだ」
「劇団としてはどうだ?
演れそうか?」
「型破りも甚だしいですが、そこが新鮮です。
女性が主人公というのも凄い。
演れます」
「しかし、人数が多い。
芸達者を集められるか?」
「募集ですな」
何か凄いことになっているみたい。
まあ確かに、私がいやいや提供した曲って私の前世の世界で流行っていたらしい絵物語の主題や劇中歌だもんね。
しかも歌詞が日本語だから、私がなんちゃって翻訳してニュアンスだけ伝えたら益々物語風になっちゃって。
曲自体は断片なんだけど、それを繋いでいくと物語が見えてくるのよ。
それに、魔法とか少女とかの主題が珍しい、というよりは前代未聞。
芸能畑の人たちが飛びついたらしい。
「金がかかりますな」
「それは心配せずとも良い。
我々が後援する」
シストリア子爵令息が口を挟んだ。
ヒルデガット子爵令息も隣で頷いている。
普通だったらたかが子爵の、しかも子弟がそんなこと言ったって誰も信用しないんだけど。
でもこの人たち、将来は侯爵だから。
信用度は抜群だ。
しかも、これだけ堂々と主張出来るってことは、おそらく貴族家内では出資の方針が決まっているとみた。
やっぱりお金だよね。
身分も大きいけど。
出資者が最強だ。
「ところで役者の件だが」
シストリア令息が言った。
「私の妹が興味を示していてな。
一度、試験して貰えないだろうか」
ちらっと目配せされて、私の隣に座っていたシストリア様が立ち上がった。
優雅に礼をとる。
「おお!
そういえばご令嬢は評判の歌姫であられましたな」
「それどころか、そもそもこれらの楽曲はシストリア嬢が書いたと聞きましたぞ」
「もちろんでございます。
是非」
これぞ出資者のごり押しか。
まあ、発起人だし実力もあるしね。
貴族令嬢が舞台に立つのはいかが、という意見もあるらしいけど、歌劇は芸能というよりは芸術と見なされる。
芸術なら貴族家の者はむしろ適任だ。
実際、王家や貴族家の者が絵を描いたり彫刻を彫ったりすることは認められているし、楽器演奏や歌手などで舞台や縁台に立つことはよくあるみたい。
貴族ってものはある意味俳優みたいなものだから。
心から貴族そのものという人もいないわけじゃないとは思うけど、大抵の人は貴族を演じているのでは。
私がそうだし(泣)。
そんなことを考えながらぼおっと聴いていたら、一応の結論が出たらしくて会議がお開きになった。
私なんか一言も話さずに坐っていただけだったけど。
でもそれはお茶会仲間のご令嬢たちも一緒で、同席者というよりは背景だものね。
いいのよ(泣)。
別に参加したくもないし。
「では」
解散が告げられても会議の参加者の人達はみんな立ち上がってそれぞれ話していたけど、私たちは早々に退散した。
私もモルズ様に続いてドアに向かう。
途中でグレースが合流して手を取ってくれた。
何もしてないのに疲れた。
「皆様、これからどうなさります?」
廊下を進みながらシストリア様が聞いてきた。
「私は予定がございません」
「空いております」
「では」
ということで、これからお茶会が開催されることに。
私?
意見なんか言えるはずないでしょ!
強制参加よ。




