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転生ヒロインの学院生活  作者: 笛伊豆
第三章 育預

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88.全力装備

 私なんか最初(スタート)は教会の孤児院育ちの孤児という最底辺だった。

 普通の平民ですらなかった。

 でもたまたま男爵家の血を引いていた上にご当主様が慈悲深かったために引き取られて、しかも係累に加えて頂けた。


 普通は貴族の庶子なんか良くて使用人だそうだ。

 むしろほっとかれる場合が多い。

 なぜならその貴族家にとっては後継者のライバルになり得るから。

 私の前世の人が読んでいた乙女ゲーム小説では定番の設定よね。

 正室が産んだ娘がいるのに、その正室が亡くなった途端に旦那が愛人とその娘を連れ込むとか(笑)。


 私なんか露骨にそれなんだけど、幸いにして腹違いの兄である男爵様とは歳が離れすぎていた。

 だって男爵様は爵位を継いだ時点でもう正室どころか成人したご子息やご息女がいたわけで。

 そんなところに前男爵の庶子が出て行ってもライバルにはなりようがない。

 なので安全枠として引き取って頂けたんだけど。


 でも、繰り返すけど本来なら私みたいなのは下働きの使用人がいいところなのよ。

 良くてご子弟のお側付きかな。

 なのになぜか男爵家の息女として貴族名鑑に登録されてしまった。

 その時点で私は「貴族家の者」になった。

 お嬢様だ。

 メチャクチャよね。


 家庭教師をつけられて、自分の名前がかろうじて書ける程度だった私は必死で勉強して。

 学院の入試を受けられるところまで持ってきた。

 落ちたけど(泣)。

 それでも「始まりの部屋」に通される程度の成績は残せた。


 後で気がついたんだけど、実際にはヤバかったかもしれない。

 男爵家にいつ見切りを付けられても不思議じゃ無いのよね、私みたいな立場の者は。

 男爵様が常軌を逸する程慈悲深かったことと、正室様やご子弟の方々が優しかったから庇護を頂けただけだ。

 それも、もし男爵家がその時点で困窮していたり、そこまでいかなくても経済的に危なかったりしていたら。

 私なんか今頃は酒場の二階の個室でお客様をもてなしていたかも。

 それはそれでも気楽な暮らしと言えなくもないけど(泣)。


 少なくとも今みたいに勉強漬けということにはなってないだろうなあ。

 ええと、話を戻すと、かように貴族の身分って曖昧というか不安定なものだ。

 孤児が男爵令嬢どころか今は伯爵家の育預(はぐくみ)だもんね。

 これからどうなるのやら。

 未来は判らないけど、現時点で頑張らないとあっという間に転落することははっきりしている。

 というわけで今日も頑張る(ヒロイン)なのだった。


 ぼやっとしていたら声がかかった。

「お嬢様」

「何?」

「そろそろお時間でございます」

「もう?

 ありがとう」

 学院からミルガスト伯爵邸の自分のお部屋に戻っていくらもたたないうちにこれだ。


「今日は何だったかしら」

「楽隊の打ち合わせでございます。

 シストリア家で」

 いつの間にかグレースが私の専属秘書みたいになっていた。

 これ、やっぱり侍女のお役目なんじゃない?

「シストリア様の?

 ならドレスね」

「はい」


 メイド(グレース)に連れられて着替え部屋(ドレッサールーム)に行くと、既に着付役のメイドさんが待機していた。

 大変だなあ。

 いつものように全部脱がされてお風呂に放り込まれる。

 貴族家への訪問って私的な場合でも全力装備なのよね。

 しかも今回は楽隊の用事だ。

 つまり私的とは言えない。

 かといって公的というわけでもないけど、行った先で他の貴族家の方とお話ししたりする機会があるかもしれないわけで。

 だから舞踏会とまではいかないまでもパーティには参加出来そうなくらいの装備を揃えられる。


 お風呂から出て身体を拭いた後、用意されていた服を着せて貰う。

 大人しめで上品なAラインのドレス。

 アクセサリーは控え目に。

 髪も簡単に結われた。

 姿見に映してみたらお嬢様がいた。

 誰が見ても元は孤児だとは思えまい(泣)。


「素敵でございます」

「よくお似合いで」

 着付けのメイドとグレースが褒めてくれるけど、ほとんどお化粧とドレスとアクセサリーの効果だからね?

 慢心はいけない。

「それでは」


 お屋敷のエントランスに回されて来たのは伯爵家の馬車だった。

 二番目くらいに豪華な奴では。

「これ使って良いの?」

「ご当主様から許可が出ています。

 伯爵家の令嬢として恥ずかしくないものをということで」

 さいですか。

 使えというのなら使わせて頂くけど。

 どっちみち私に拒否権はないし。


 静々と進んで馬車の前に来たら下僕(フットマン)がドアの下に足置きを揃えてくれた。

 グレースが先に上って私に手を差し出す。

 メイドさんやってるなあ。

 礼儀(マナー)の授業で習った通りに姿勢を崩さずに馬車に乗り込む。

「出発します」

 馭者が言って馬車が動き出した。

 何かここまででもう疲れた。


「何か注意することってある?」

 正面に坐っているグレースに聞くと紙を渡された。

 つい贅沢なとか思ってしまう。

「本日の出席者です。

 初対面の方には印をつけておきました」


 本当、グレースって有能。

 思わず尊敬の目で見てしまったら慌てて手を振られた。

「私が作ったんじゃないですよ。

 ミルガスト伯爵家の支援部隊です」

「それって執事の人(アーサーさん)でしょ」

「そうですが」


 アーサーさん、きっと将来は立派なミルガスト伯爵家執事になるんだろうな。

 ていうかこのくらい出来ないと領地貴族の執事は出来ないのか。

 気を取り直して情報を頭に叩き込む。

 爵位持ちはいないみたい。

 というよりは、そういう立場での参加はなさそう。

 万一いたとしたって別の身分に偽装しているんだろうな。

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