77.もういいや
私が食べ終わるとメイドさんはワゴンと一緒に去った。
取り残される私。
何しようか。
今日は学院の講義もないし、着飾ったままでは教会や孤児院には行けない。
ドレスを汚しそうで怖い。
孤児って獣だから。
そういえばコレル閣下に頼まれていたことがあったっけ。
私は鈴を鳴らしてメイドさんを呼ぶと、筆記用具を用意して貰った。
希望する家庭教師のリストを作らないとね。
昼食の後、メイドさんにお願いして散歩に付き合って貰った。
といってもタウンハウスの庭をぐるっと回っただけだ。
本当は久しぶりに外出してみたかったかったんだけど、護衛が用意出来ないということで断られた。
どこかに行きたいのなら少なくとも3日前には命じておかないと駄目だそうだ。
執事の人がわざわざやってきて教えてくれた。
「お嬢様はもう、当家の一員なのですから」
「大げさすぎるのでは。私はまだサエラ男爵家のものですよ?」
「その前にミルガスト伯爵家のお客人でございます。
万が一のことがあっては困ります」
そうなの。
つまりは伯爵家の面子か。
「でも外出出来ないなんて」
「お付きを調整中です。
しばらくお待ちください」
え?
「私にお付きがつくんですか?
メイドさんとか?」
「侍女です」
いやいやいや!
男爵令嬢に侍女をつけてどうするのよ!
自分自身が侍女ならともかく。
実際、サンディさんは男爵家の嫡子なのに侍女だったよね?
「ですからお嬢様はミルガスト家の令嬢に準ずるということで。
侍女にサンディをお望みですか?」
「いえ!
あの人って男爵家の令嬢でしょう?」
「当家の使用人です」
それか!
貴族家のものはその身分のままでは他の貴族家の臣下にはなれないから、一時的に身分を停止して平民扱いで使用人になると。
でも駄目だ。
本当なら私よりサンディ様の方が身分が高いんだよ!
「……出来ればもっと身分が低い方で」
「考慮させて頂きます」
執事の人の態度も違う。
あくまで私を「お嬢様」扱いする気らしい。
もうしょうがない。
「お任せします」
とんでもないことになってしまった。
私、今まで事態を甘くみていたみたい。
ミルガスト家の後援を受けるってそういうことか。
「それとでございますが」
執事の人、ええとアーサーさんが咳払いした。
「コレル閣下から伝えておくように命じられました。
お嬢様は既にミルガスト伯爵家の『育預』となっております。
これは正式なものです」
何それ?
「育預ですか。それはどういう」
「簡単に言えば相続権の無い養子のようなものですね。
公的なご身分はサエラ男爵家の令嬢ですが、対外的にはミルガスト伯爵家のものとして扱われます」
相続権はございませんが、と念を押す執事の人。
そんなのはどうでもいいけど、つまりそれって?
「ですからお嬢様は今後、伯爵家令嬢扱いされます」
詰んだ(泣)。
私が何をしたというのよ。
無茶苦茶でしょう。
孤児上がりの男爵の庶子を伯爵家の令嬢扱いしてどうしようというのか。
私が衝撃を受けて黙り込んでいると執事の人は平然と続けた。
無表情だけど楽しんでない?
「従って今後は学院はもちろん、外出する場合は常にお付きを伴って頂きます。
街に出る場合は護衛も」
さいですか。
私が?
侍女やメイドや護衛騎士を連れてぞろぞろ移動するの?
「学院でもですか」
「そうですね。
公的な施設内は安全ですので、院内は侍女かメイドだけでよろしいかと。
それから、今後は学院に通われる場合は馬車を用意させますので」
嫌だ(泣)。
何が哀しゅうてこの私が通学で馬車なんかに乗らなければならないんだ。
でも断れない。
偉い人が決めたんだからしょうがない。
もういいや。
考えるのは止めよう。




