64.ただのメイドじゃない
その後、やっとのことで解放された私はグレースに半ば支えられるようにしてモルズ伯爵邸を脱出した。
やっぱりエントランスにミルガスト伯爵家の馬車が横付けされたけど。
疲れた。
「ご苦労様でございました」
グレースの労りが白々しい。
馬車がモルズ邸の門を抜けてからようやく一息つけた私はメイドを睨んだ。
「知っていたの?」
「何がでしょうか」
笑うなよ。
「あれ、高位貴族家令嬢のお茶会だった」
「そうでございますね」
しらっと言うメイド。
こいつ、なかなかのタマなのでは。
あ、えーと私の口調が乱れているというか、貴族令嬢にあるまじき下品なスラングとかが混じっているのはアレね。
私の前世の人だった女子高生と、私の幼年時代が入り混じって本性が出ているから。
前世の世界で女子高生と言えば奔放の代名詞だったらしいし、今の私の子供時代は露骨に庶民の孤児だもんね。
いやー、人に言えないようなことを色々。
絶対に言わないけど。
「たかが男爵家の庶子にあれはきつい」
「ご立派にやり過ごされました。
というよりは見事に乗り切りましたね。
お嬢様の目は確かでございました」
ミルガスト伯爵のお嬢様ね。
グレースの本当の主人か。
そうそう、不思議なんだが。
「あの方々、ミルガスト伯爵様のお嬢様とどういう関係なの?
普通の知り合いというには身分が高すぎない?」
そう。
モルズ様やサラーニア様は同じ伯爵令嬢だから判らない事はない。
だけどシストリア様やヒルデガット様はまごうことなき高位身分だ。
ミルガスト伯爵様の貴族界での立ち位置はよく判らないけど、モルズ様だって領地貴族と言いつつお父上は王政府の武官だからね。
しかも軍の将軍といったら高官だ。
貴族としての立場はかなり高いのでは。
その証拠に王都のお屋敷の規模が違い過ぎる。
だってミルガスト伯爵様って、タウンハウスの規模からみて良くて中堅貴族なのよ。
それにミルガスト伯爵の末の令嬢は私よりひとつかふたつ年下だと聞いている。
さっきの方々はもう輿入れの話が進んでいたりして、年齢的にも合わないのでは。
「さすがでございます。
やはりあなたは男爵令嬢にしておくには惜しい」
グレース、あなたこそ何者?
上から目線が酷いよ?
「……お嬢様の事についてメイドごときが勝手に話すわけにはいきませんのでご容赦を。
ただ、これだけはお話ししておきます。
今回のお茶会のご紹介はお嬢様が独断で行ったわけではございません」
え?
違うの?
確かお嬢様が学院で私の評判を聞いて推薦したとかいう話だったのでは。
「……つまりもっと上からの」
「申し訳ありませんが、これ以上は」
そうだろうな。
でもはっきりした。
グレースってただのメイドじゃないよね。
いやメイドではあるかもしれないけどミルガスト伯爵家で何かお役目についているのかも。
あー、もうしょうがない。
考えるの止めよう。




