61.それかーっ!
そうなのか。
いやそれはそうか。
領地貴族の令嬢なら幼い頃から婚約者がいて当たり前だ。
乙女ゲーム小説でもそうなっていたし。
「私にもおります」
ヒルデガット子爵令嬢がさらっと言った。
「ライアール侯爵様のご令息でしたかしら」
「はい。
三男でいらっしゃいます」
え?
婚約者が侯爵の令息なの?
ヒルデガット様って子爵令嬢なのに?
いくら三男と言っても身分差がありすぎるのでは。
それともあれか?
乙女ゲーム小説でよくある領地が隣で幼なじみという奴?
「ライアール領は確か南方でございますよね」
「はい。
海に面しております。
一度行ったことがありますが、片道10日間は長うございました」
「いかがでした?」
「皆さん歓迎して下さって。
楽しかったですわ」
ちょっと待って!
政略なの?
「あの!」
「何でございましょう?」
「ヒルデガット様は嫡子なのですか?」
執事の人が渡してくれたお茶会の参加者リストにはそんなこと書いてなかったと思う。
嫡子かそうでないかって貴族にはもの凄く重要だから。
子爵とはいえ跡取り娘なら。
侯爵家の三男を婿取りするのは何とか可能か?
「いえ?
私は次女でございます。
姉上と、あと兄上が二人おりますのよ」
上の兄上は宰相府に出仕しておりまして、と自慢そうに続けるヒルデガット様。
婿入りじゃ無い?
子爵令嬢って侯爵家に嫁に行けるくらい身分が高いの?
私が? な表情になっているのに気がついたらしいモルズ伯爵令嬢がポンと手を打った。
「ああ、そうでした。
皆様のご身分について、ミルガスト様からお聞きになっておられません?」
聞いてません。
寄親の伯爵家の令嬢なんか話すどころか見たことすらないのよ(泣)。
身分が違う。
「申し訳ございません。
寡聞にして」
すると皆様はなぜか頷いた。
「それでは戸惑っても当然ですわね。
ヒルデガット様とシストリア様のご実家は子爵家ですが、お父上はヒルデガット辺境伯爵家とシストリア侯爵家のご嫡男でございます。
今はそれぞれご当主様が健在でおられるので子爵を名乗られて」
それかーっ!
「高位貴族の跡継ぎが子爵を名乗る」って奴なのか。
つまりお二人とも高位貴族のご令嬢じゃないか!
だから侯爵家のご子息の家庭教師になれたり政略結婚で相手を選んだり出来ると。
そんなことリストには書いてなかったよ(泣)。
「申し訳ございません!
これまでのご無礼をお許し頂きたく」
土下座したかったけど無理なので、飛び上がって深く礼した。
たかが男爵の、それも孤児院育ちの庶子が成り上がって令嬢づらして高位貴族のお茶会に出席してしまった。
腹を切れと言われても仕方がない。
修道院に行くべきか?
「あらあら、お気になさることはございませんのに」
「そうそう。
身分など些細なことですわ」
口々におっしゃる高位貴族令嬢の皆様。
本気で言ってる?
高位貴族がそれ言っちゃおしまいなのでは。




