59.家庭教師?
改めて簡単な自己紹介をしてからお茶を頂く。
皆さんは優しかった。
私の前世の人が読んだ小説だと、身分が低い貴族令嬢や平民に対して酷い事を言ったり馬鹿にしたりする高慢な令嬢が必ず出てくるんだけど、もちろん現実にはそんなことはない。
貴族社会って足の引っ張り合いだもんね。
わざわざ自分から地雷を踏みに行く馬鹿はまずいない。
もしいたらお茶会になんか出られずに排除されている。
でも一応好奇心はあるらしくて、皆さん遠慮がちではあるが質問してこられる。
「まあ、今は学院に?」
「はい。本科で学んでおります」
「あら、セズス教授はご存じ?」
「いえ、寡聞にして」
「そうなの。
在学中は大変お世話になった方よ。
とても親切な教授ですから機会があったらお訪ねになって。農地がご専門で」
「ありがとうございます。
機会があれば是非」
ヒルデガット子爵は地方の領地貴族らしい。
ご令嬢もそっち方面を学んでいるってことは、似たような貴族に輿入れするんだろうな。
私?
うーん。
「わたくしも学院生なのですがもう二年目ですの。
今年こそは」
シストリア子爵令嬢が力説した。
つまりまだ輿入れが決まってないわけか。
どこかに就職するつもりなのかもしれない。
「あら、シストリア様はハモンド候ご子息の家庭教師では?
てっきりそちら方面に進むものかと」
サラーニア伯爵令嬢が意外そうに言った。
ちなみにサラーニア嬢はちょっとふくよかというか、全体的に肉付きがとても良いお嬢様だ。
特に胸の辺りが。
あれって寄せてあげているんだろうか。
もし天然だとしたら凄い。
「そちら方面では力不足を痛感いたしておりますの。
やはりご子息の家庭教師は鍛錬に付き合えるお方でないと」
シストリア様はしかめっ面になった。
まあ、そうだろうな。
貴族子弟の家庭教師って難しい。
まず、家庭教師を雇うほどの負担に耐えるには貴族側がかなり裕福でないと駄目だ。
ハモンド侯爵は当然高位貴族だから領地貴族だし、だから家庭教師を雇っても不思議ではないのだが。
でもご子息の家庭教師が淑女ということは、おそらくそのご子息は嫡男ではないんだろうね。
逆に言えば嫡男ではないご子息にも十分な教育を与えることが出来るくらい余裕がある。
もちろん高位貴族の子弟に教えるには家庭教師としても優秀でなければならない。
更にご子息の場合は今おっしゃったように身体の鍛練にも付き合う必要が出てくる。
というのは、高位貴族って頭脳よりむしろ体力や精神力が重要だから。
頭脳は優秀な臣下や配下で補えるけど、本人が虚弱だったらどうにもならない。
だからご子息は学術方面はそこそこでも身体を作ったり鍛えたりする事が尊ばれる。
まあ、ご息女は別だけど。
だとすると変よね?
なぜ淑女であるシストリア様が選ばれたの?
「ああ、シストリア様は乞われてハモンド侯のご子息をお教えになっておられるのでしたね」
ニコニコしながら黙っていたモルズ伯爵令嬢が口を挟んだ。
「だから厄介なのですわ」
シストリア様は不機嫌だった。
「あのエロ餓鬼……いえ、お坊ちゃまは最近益々」
うわー。
それ言っちゃうんだ。
確かにシストリア様って美人だ。
細身だけど出るべきところは出ているし、茶色の巻き毛に黒くて大きな瞳が何というか色っぽい。
エロ餓鬼……いやハモンド侯爵子息とやらが指名したのも頷ける?
「そういえばサラーニア様は輿入れのお話が進んでおられると聞きましたが」
シストリア様が露骨に話を逸らせた。
まあ、そうするよね。
皆さんもすぐに乗る。
私も。
「はい。嫁入りになりますが、いくつか候補が上がっていると聞いています」
おっとりと答えるサラーニア様。
領地伯爵家だから政略だよね。
それ以外にはあり得ない。
でも候補?




