52.王家の色
私の嘆きをよそにメイドの人たちは私を磨き上げた。
お肌には満遍なくクリームを塗り込まれ、香水もたっぷり。
「あんまり多いと顰蹙を買うのでは」
「お嬢様の臭いを消すためです」
さいですか。
私、臭うらしい。
「そんなことはありませんよ。誰でも同じです」
「そうなのですか」
「そもそも香水は体臭がきつい人のために開発されたものなので」
メイド長が教えてくれたところによると、人間の体臭は千差万別だそうだ。
どんなに洗ってもきつい臭いが消えない人もいるとか。
平民ならそんなこと気にしないけど貴族は大変だ。
ちょっとした瑕疵が致命傷になることもある。
あいつの臭いは酷い、というような馬鹿馬鹿しい理由で失脚するかもしれない。
よって香水を使って誤魔化すと。
「みんなが使っているのでしょうか」
「そうとは限りません。人によって色々ですからね。中にはご自身でうっとりするような良い匂いを醸し出す方もいらっしゃるとか」
その場合、香水など邪魔以外の何ものでもありませんから、とメイド長。
そんな人がいるのか。
いいなあ。
淑女だったらモテモテだろうし、殿方でも少なくとも嫌われたりはしないだろうな。
私はどうなのだろう。
「お嬢様の体臭は無臭ですね。それはそれで良いことです」
「なら何で香水を?」
「随分長い間、湯浴みをしておられなかったようですね。
身体に臭いが染みついています」
さいですか(泣)。
もういいです。
どうとでもしてください。
「なのでちょっと強い香水でいきますよ。
臭いが消えたらもっと弱いものに変えます」
「よろしくお願いします」
ちなみに今の私はドレスどころか下着まで脱がされてガウン一枚だ。
ていうか下着って腰巻しかないんだけど。
「これを」
「いいんですか?」
何とレースの下着を渡された。
お嬢様の持ち物なのでは。
「もういらないものですので」
やっぱし。
前にも言ったと思うけど、ミルガスト伯爵家の末のお嬢様は私より一つか二つ年下だ。
でも発育がとてもいいらしくて、数年前の服が今の私にぴったりだとか。
胸とか腰とか。
下着もそうなんだろうな。
小さくなってしまった下着なんかもう使えないし、末のお嬢様なのでお下がりにもならないと。
いや貴族令嬢の服それも下着なんかもともとお下がりには出来ないけど。
ということで私に回ってきたらしい。
ならばありがたく頂きましょう。
履いてみる。
何か貴族になったみたいだ。
いや貴族なんだけど(笑)。
実は男爵家でも似たような下着は履いていたけど明らかに質が劣っていた。
こんなところに経済的身分的格差が。
ドレスを着て鏡台の前に坐らされ、髪を弄って貰う。
希望を聞かれたけど特にないなあ。
私の髪は真っ直ぐの金髪で、貴族令嬢らしく背中の中程まである。
孤児だった頃は短く切っていたんだけど、男爵家に引き取られてから伸ばしたのよ。
本物の貴族令嬢は大抵腰の辺りまで髪が伸びていて、それを色々と結ったりするんだけど、私はまだちょっと長さが足りない。
それに私は童顔だから、下手に髪を弄ると幼女感が酷くなるのよね。
「このまま流してください」
「では髪留めを」
高価そうなものを装着される。
どうとでもしてください。
ちなみに私の瞳は紫色で、これは貴族の中でも珍しいそうだ。
実を言えば王家の色でもある。
別に独占ではないんだけど、将来的には不安だ。
だって私の母方のお祖父様という人は高位貴族家だけあってどうも王家の血が入っていそうだし(泣)。
私の祖母さん、本当に余計なことしやがって(怒)。
大体、メイドの分際で高位貴族の愛人とかやるんじゃないわよ!
私の母親みたいにせいぜい男爵程度で済ませておけば私が苦労することもなかったのに!




