表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ヒロインの学院生活  作者: 笛伊豆
第二章 学院本科

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/371

50.何とかやっていくしかない

 ていうか、貴族の場合名前を知っていてもほぼ使わないんだよね。

 お互いに姓とか身分とか通称とかで呼び合う。

 私だったら「サエラ男爵息女」だ。

 相手の身分によって様がついたり「令嬢」になったりするけど名前は呼ばない。

 というのは名前って家族か親しい方以外は呼んではいけない決まりになっているから。


 礼儀(マナー)の家庭教師によれば、これは大昔からの伝統というか慣習なのだそうだ。

 まだ魔法とか呪術とか悪霊とかが信じられていた時代、悪魔や魔女に名前を知られると操られたり支配されたりするという迷信があったらしくて。

 真名(マナ)って言うんだけど、名前はその人の本質を表すから、つまり知られたら魂を握られてしまう。

 だから滅多な事では出さない。

 その名残で名前を隠すとまではいかなくても、人前では出さないようになった。

 それでも使わないわけじゃないけど。


 相手の名前を呼ぶ、ということは強い信頼関係を公言することになる。

 もし人前で名前を呼んだら自分がその人と親密な関係であると表明したことになってしまう。

 婚約者とか。

 同性の場合もほぼない。

 個人的(プライベート)な場では違うけど。

 私がエリザベスをエリザベスと呼ぶのは二人きりの時だけだ。

 貴族ってそのくらい人と人との距離感が厳密に定められているのよね。

 これも礼儀(マナー)の講義で習った。


 だから私の前世の人が読んだ小説で、高位貴族の令息や王家の人が男爵令嬢を名前呼びするって、しかも人前でって、その小説書いた人は貴族社会の事を何も判ってないなと思った。

 それ、やったら男爵令嬢を売春婦呼ばわりしているようなものだよ?

 だっていやしくも貴族相手にやることじゃないし。


 そう、平民同士なら問題ないし、貴族が平民を呼ぶ時は名前でもいい。

 もっとも貴族って平民のことを家畜よりちょっと上としか思ってないから、多分名前なんか知ろうともしないだろうけど。

 個体識別すら出来るかどうか。

 万一、何か命令する場合でも自分では直接やらせない。

 臣下か使用人に命令するだけだ。


 だから私の前世の人が読んだ小説に出てくるような、悪役令嬢がならず者に命じてヒロインを襲わせた、というような状況はどう考えてもナンセンスなのよね。

 令嬢に限らず貴族は直接そんなことはしない。

 それどころか間接的にもやらない。

 せいぜい臣下の前で示唆するとか「あれはどうにかならないのか」みたいなことを呟くくらい。

 固有名もやらせたいことも直接は口にしないし、誰かに向かって言うこともない。

 それを聞いた臣下が忖度してやる。


 その臣下も使う相手に名前を出すはずが無い。

 増して指示のメモを直筆とか、読者を馬鹿にしてない?

 一事が万事そうなのよ。

 後ろ暗い事なら尚更だったりして。


 私の前世の人が読んでいたらしい小説って、私なんかから見たら変な所がいっぱいある。

 作者は少なくとも貴族社会の慣習や常識を全然判ってない。

 身分制度がない社会で育ったのなら仕方がないかもしれないけど。

 逆に私は身分がない世界って想像も出来ないのよね。

 もし王家や貴族がいなかったら誰がどうやって国や領地を統治するのよ?

 官僚?

 商人?

 それとも傭兵団とか?

 実際、そういう時代もあったらしいけど。


 私の前世の人って自分自身についての記憶がほとんどない割には社会的な制度や常識については結構詳しい。

 例えば選挙。

 信じられないけど、支配者を庶民が選ぶそうだ。

 そんなの支配者が「俺に票を入れろ」と命令して終わりなんじゃないかと思ったけど、候補者が複数いたら確かに「選ぶ」という行為が必要になってくる。

 でも庶民って誰をどうやって選ぶのか。


 一番強い候補者に投票する?

 いやだって、その「一番強い」って選ばれてからの話だ。

 選ばれる前は誰が一番強いかなんて判らない。

 だから候補者は美味しい事を言って支持をとりつけようとするらしい。


 私の前世の人は女子高生という種族というか身分で、いや身分はないから階層?

 とにかく年齢が足りなくて投票出来なかった。

 そう、その社会ではどんな平民でも成人すれば支配者を選べるようになる。

 それどころか支配者に立候補も出来たらしい。

 一見理想的だけど、ちょっと考えただけでもヤバいことが見え見えなのでは。


 だって口では何とでも言えるのよ。

 美味しいこと言って支持をとりつけて、支配者に選ばれてしまえば後は好き勝手しても誰も止められないんじゃない?

 実際、そのことで誰も望んでない戦争を起こしたりした支配者もいたらしい。


 うーん。

 まあ、私には関係がないお話だから。

 私は孤児上がりの訳ありの男爵令嬢という立場で何とかやっていくしかないのよね。

 このバリバリの貴族社会で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
確かに色々異色な転生貴族界隈物語ですね。こういうあるのも面白いです。他の感想はもうちょと読んでから書かせていただきま す。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ