49.私には何もない
それから私は執事の人に協力して貰ってお茶会の参加者について情報を集めた。
主催者はモルズ伯爵様のご令嬢。
モルズ家はミルガスト伯爵家とほぼ同格の領地貴族で何かと取引があることから昔から家族ぐるみで親しいとか。
「ご令嬢はお嬢様のお知り合いとのことです。
歳はお嬢様の2つ上」
つまりは16か17歳か。
「学院に通っていらっしゃるの?」
「既に退学済みです。もうお輿入れが決まっていらっしゃるので、行儀見習いがてら輿入れ先の侯爵家に通って奥方修行をしておられるそうで。
その一環として王都のタウンハウスで人脈を広げるべく活動しておられるとのことです」
さすがは執事の人、詳しい。
ていうかこの人、そういう情報を集めるのもお仕事なんだろうね。
領地貴族のタウンハウスって王都滞在のための別荘じゃないから。
言わば領地貴族の王都拠点なのよ。
主家のお嬢様の交友関係について調べていないはずがなかった。
「他の参加者は?」
「後でリストを差し上げます。
それぞれ領地の特色や特産物、ご本人の情報を添えておきますので」
「ありがとうございます」
本当に助かる。
こういうのが領地貴族というか、本物の貴族家の凄みなんだろうね。
私の実家の男爵家だとこうはいかない。
王都にも貴族にもコネなんかないし、情報を集めるにしても限界がある。
ああ、それで寄親か。
貴族家が派閥を作るのもそれが理由だ。
つまり寄親であるミルガスト伯爵家は寄子のサエラ男爵家に何かと便宜を図ってやっていると。
なのでおこぼれで庶子の私もお世話をして頂ける。
その代わりに寄子は何かあったら馳せ参じる義務がある。
私もそういう意味では伯爵家から何か指示されたら断れない。
今回のお茶会出席なんかもそれで(泣)。
「まあまあ。お嬢様のご好意なのですから」
判ってますが、出来ればもっと礼儀を磨いてからにしたかった。
それから私はお茶会の前日まで執事の人がくれた情報を頭に叩き込みながら過ごした。
大変だった。
私の前世の人の記憶では、乙女ゲームの登場人物って人外能力を備えている人が多いらしいんだけど。
攻略対象だったら身分が高い上にイケメンで頭も良くてカリスマがあって俺様とか。
ヒロインだったら聖なる魔力があるとか。
でも私には何もないのよ。
ていうかどっちかというと平均以下みたい。
物覚えも悪いし人の顔だって覚えられない。
学者的な頭脳というわけでもないし、外国語どころかテレジア王国語だっておぼつかないくらいで。
小説のヒロインの最大の特徴である「愛想の良さ」とか「誰とでも親しく付き合える」というような性格でもない。
こんな性能でどうしろと。
まあ仕方がない。
別に高位貴族の御曹司を攻略しようとか思ってないから。
どなたにも失礼がないように雑踏に埋もれるのが目標だ。
ただ心配なのは私の血筋なんだよね。
小説では高位貴族の貴公子と親しくなった途端に王家が介入してきたんだったっけ。
それで逆ハー(そういう表現なんだけどよく判らない)状態になってしまって、すったもんだの末に……と言うところで記憶が途切れている。
私の前世の人、小説を最後まで読まなかったらしい。
途中まではこれだけ詳細に覚えているんだから飽きたとか嫌になったとかではないはずだ。
事故か何かで亡くなったとか?
あまりにも酷い結末なので読むのを止めたという可能性もあるか。
まあ、小説に出てきた貴公子の皆さんは既に全滅しているらしいから考えなくてもいいけど。
でもこういったお話には強制力というものがあって、本人の行動に関わらず小説の通りになってしまう、というお約束らしい。
ないだろうけど。
だって攻略対象、全員脱落だよ?
ここから小説通りの展開になるって無理でしょう!
ただ、私はほぼ小説通りに動いているのよね。
学院が小説とかけ離れているから環境的には全然違ってきているけど。
そもそも攻略対象どころかまだ学院の殿方とお話したのって事務の人とだけだ。
後は生徒も教授も使用人すら女性だった。
学院を離れても親しく話したことがある殿方って執事の人だけだし。
そういえばまた名前を聞きそびれた。
まあいいけど。




