48.愛玩用か!
数日後、ドレスが届いたということであのお部屋に呼び出された私はクローゼットにずらっと並んだドレスを前に思わず硬直した。
何か別物になってない?
たった数日で?
「これは」
「当店のデザイナーがお嬢様の印象に合わせて縫い直しました。
どうぞお確かめください」
自信満々に言う中年のご婦人。
メイドや侍女じゃなくてお店の人らしい。
平民だろうけど職業婦人だ。
こういう場合、慣例で平民でも貴族と対等に話すことが許されている。
そうしないと商売出来ないから。
まあ、高位貴族の場合はエリザベスの家みたいに商人側も貴族なんだけどね。
ミルガスト伯爵令嬢の場合もそうだろう。
でも私みたいな男爵令嬢なら平民みたいなものだから。
侍女の人に手伝って貰ってドレスに着替える。
Aラインのシンプルなドレスで色は薄青。
ちょっと大人っぽいかな。
高価な姿見に映してみたら、自分じゃないみたいだった。
私は前世の人の記憶にあった「乙女ゲームのヒロイン」らしく、小柄で我ながら可愛い顔をしている。
髪の毛が薄い赤に近い金髪というか前世の用語でピンクなのもあって、ふわふわした印象だ。
それがなぜか引き締まってみえた。
「凄い」
「お嬢様はお歳より幼く見えますので、少し上げてみました」
うん。
体型的にアレだから(泣)。
だからAラインって割と似合うのよね。
ちなみに前世の人の記憶によれば、乙女ゲームのヒロインには胸がある型とない型があるそうだ。
私は後者。
別にいいけど(泣)。
「いいですね、これ」
「こちらはお嬢様の本来の魅力を強調したものです」
着替えさせられたドレスは私の髪に合わせた明るい桃色だった。
フリル付きで。
これが「私本来の魅力」?
何か着せ替え人形みたいだけど?
愛玩用人形か!
「これはちょっと」
「そうね。似合いすぎて貴族令嬢に見えない」
侍女とお店の人がコソコソ話しているけど聞こえてるよ!
あと3着あったので全部着てみた。
いずれも私にぴったりだった。
プロの仕事だ。
「いかがでしょうか」
「いいと思います。これって場に合わせて選べばいいんですよね?」
「そうですね。
私がお手伝いします」
侍女の人が言ってくれた。
なら安心だ。
だって私は貴族女性の装いなんか全然判らないもんね。
孤児生活が長かったし、男爵家に引き取られてからも貴族にはほとんど会ってない。
平民だったらこっちが何着ていようが文句は言わないし。
ファッションは誰かに丸投げしようと思っていたから好都合だ。
「ありがとうございます。
よろしくお願いします」
ふう。
これで何とか用意は調ったか。
お茶会やパーティに出かける時には着付けが必要ということで、ドレスはこのままこのお部屋で預かって頂くことにする。
私が住んでいるのは使用人用のお部屋だから、どっちみちドレスを収納できるクローゼットなんかないからね。
ドレスのお店の人を帰してからみんなで応接間に戻ってくつろぐ。
みんなと言ってもミルガスト伯爵家の人はいないから、同席者は執事の人と侍女の人だけだ。
後は私には関わらないらしい。
身分的にも。
「後は小物ですね」
執事の人が言った。
「アクセサリーについてもご指示を頂いています。伯爵家のものをお貸しします。これは本当にお貸しするだけですが」
それはそうだろう。
ていうかいいの?
「無くしたり壊したりしたら?」
「弁償して頂きます」
やっぱし(泣)。
でも借りるしかないんだろうな。
実際問題として、お茶会なりパーティなりに参加する淑女が服以外は何のアクセサリーもつけてなかったら噂が飛ぶだろうし。
よし、必要最小限にして死守しよう。
「何かご希望はございますか? あまり高価なものは無理ですが」
「お任せします」
押しつけておく。
この件では男爵様は頼れないし、ファッションセンス皆無な私があれこれ考えても無様な結果になるだけだろう。




