45.履修証明
「大変でしたね」
「はい。その時、私はもう17歳だったんですよ。だからあなたの大変さも判ります」
まー、男性だから特に婚期とか賞味期限とかはなさそうだけど、でも貴族男性も割と年少の頃から教育を受けるからね。
エリザベスに聞いたんだけど、例えば騎士志願者は10歳くらいで騎士団に下働きとして出仕して、12、3歳で見習い候補になるそうだ。
そこからずっと修行して、大体15歳くらいで騎士見習いになる。
というかなれる人はなる。
駄目な人はその前に辞める。
そして修行して正騎士に叙任されるわけだけど、騎士といっても色々あるみたい。
それはまた後で。
「申し訳ありません。
殿方の学院生活についてはよく知らないので」
「おそらく淑女と似たようなものだと思いますが。
ただ、男性用の講座には騎士向けや王宮文官向けのものもあります」
ああ、それはそうか。
殿方にとって学院は婚活というよりは就活の場だものね。
貴族としての心構えはそのまま貴族社会での生存競争や出世に通ずる。
コネも。
実際、この執事の人の兄上はそれで王宮文官になれたらしいし。
「騎士向けの講座もあるのですか」
「向けというよりは必須単元みたいなものですね。
騎士団で出世どころか正騎士に昇格するためだけでもその講義のメダルがないと難しい」
「なるほど」
メダルは講座の履修証明だ。
資格みたいなものかな。
教授が認めた印ね。
騎士ってある意味文官でもあるから。
軍隊で言えば士官、最低でも下士官。
単独で動くよりは兵隊を指揮したりすることが多い。
だからただの脳筋では務まらない。
ただ命令に従うだけだったら兵士でいいし。
「お屋敷の執事さん向けの講座もあるんですか」
「そのものズバリはありませんが、法律や行政、人事的な単元はあります。もっとも必須というわけではないのですが」
執事の人のお話では、そもそも学院で学べるのは初歩というか基本だけなのだそうだ。
例えば執事だったら学院で学んですぐに完璧にお仕事が出来るということはない。
やはり、実際にお屋敷なりお城なりで実務に携わって経験者から色々学ばなければ一人前にはなれない。
「それでも学院で基本的な用語や組織の仕組みなどを学べば上達は早いわけです。
みんなそんなものですよ」
だから淑女科の方でもあんまり無理することはありません、と執事の人。
どうやらそれが言いたかったらしい。
それは嬉しいんだけど。
でも私には私の事情がある。
だってデスゲームのヒロインという設定はまだ生きてる。
今のところ気配もないけど、多分監視されている。
そのうちにどっかから接触してきそう。
そういう意味では既にエリザベスと癒着してしまっているし。
そう、エリザベスって本来は私みたいな男爵家の員数外の庶子なんかと関わる人ではない。
身分こそ貴族としては低いけど大富豪家の嫡子で本人も優秀。
その気になれば高位貴族家に嫁いだり、大商会を継いだりも不可能じゃない。
お友達になりたい貴族は男女かまわず多いんじゃないかな。
だから、外から見たら私の立ち位置って理解不能だと思う。
「ありがとうございます。
でも私はそれでなくても貴族令嬢として不出来ですので」
執事の人の忠言は嬉しいけど、私には遊んでいる余裕なんかないんだよ。
勉強でもしてないと怖くてやっていられない。
「だからこそです」
執事の人はしつこかった。
「学問も重要ですが、せっかく学院に通っているのですからもっと人脈を広げた方が良いかと思うのです。
何かあった時に孤立無援では即詰む恐れがありますから」
何か切実だけど、ひょっとして在院中に何かあった?
でもまあ、言われていることはもっともだ。
だけど私には伝手がないんだよね。
エリザベスには頼りたくないし。
これ以上癒着したら取り返しがつかなくなりそう。
「あなたを見ていると学院に通学しているだけで、暇な時は使用人に混じって働いておられる。
それは貴族令嬢としてはいかがなものかと」
「あー」
変な声が出た。
やっぱり駄目だったか。




