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転生ヒロインの学院生活  作者: 笛伊豆
第二章 学院本科

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42.自分が大事

 気を取り直して聞いてみる。

「そういえば教会のバザーにクッキーとか出すのはいいの?」

 貴族令嬢の手作りと言えば人気が出そう。


「駄目よ。そんなの平民は恐れ多くて手を出せないし、手を出せるような人達は誰が造ったか判らないようなお菓子は食べないから」

「そうか」

 刺繍したハンカチなんかとは違うようだ。

 そういえばバザーで売られているああいう品物って誰が買うんだろう。

 結構高いのに。


「貴族が買うのよ。義理で」

「そうなんだ」

「喜捨みたいなものね。売れ残ったら造った人に失礼でしょ。その場合はまとめて業者が引き取ると聞いている」

 いつも全部売れるってそういう理由か。

 世知辛いなあ。

「つまりは出来レースというわけ?」

「そうね。そもそもバザーの売り上げなんか、貴族の寄付に比べたら微々たるものだから。

 教会も期待してないわよ」


 そうなのか。

 私の前世の人が読んだ小説だと、主人公(ヒロイン)が色々工夫してバザーの売り上げを伸ばしたりするんだけど。

 やっぱり絵空事だったか。

 ああ、そういえば。

「教会付属の孤児院なんだけど」

 聞いてみた。


「何?」

「ほとんど文字も教えてくれなかったのよ。将来を考えたら絶対必要なはずなのに」

 私だって男爵家に引き取られる前に少しでも教育して貰えたらまだマシだったかも。

「誰が先生をするの?」

 エリザベスが冷たく聞いてきた。

「私みたいな貴族令嬢がやればいいのではないかと」

 前世の私が読んだ小説では、ヒロインが孤児を教えてその孤児達が大きく羽ばたくのよね。

 将来協力者になったりして。


「却下」

「どうして?」

「孤児を教育したら教会の信徒が怒るでしょ」

 訳が判らないことを言い出すエリザベス。

「なんで? 自分の子供にも教えろって?」

「それもあるけど。

 いい? 孤児達が字なんか覚えていい所に雇われたり出世したりしたら、ちゃんと働いている人たちの子供たちはどうなる?」

「……」

「平民は子供はおろか自分たちすら字なんか教えて貰ってないのよ。

 そんな人たちが、自分より惨めだと思っていた孤児の出世をどう思うか。

 判るでしょう」

 そんな。


「じゃあ、わざとなの」

「そう。大衆には自分より惨めな存在がなくてはならない。

 これが孤児を教育しない理由」

 そうか。

 そうなのか。

 私たちはわざと弱者の立場に置かれていたのか。

 でもそれは残酷な事実だった。

 もと孤児で、貴族令嬢になった私には判る。

 平民は貴族に見下されている。

 だから見下す対象が必要だと。


「そういうものなのね」

「そうよ。みんな踏みつける相手が必要なの。でなかったら不満が溜まっていつか反抗するかもしれないでしょう」

 私の前世の人には考えつかない発想だろうな。

 でも私には判る。

 孤児だった時には諦めていた。

 自分が最底辺なんだって。

 でも普通の平民はそうはいかないんだろう。

 なるほど。

 みんな孤児には優しかったけど、あれは同情というよりは優越感からだったのか。

 こいつらに比べたら自分は恵まれている、という。


「あーあ。何か嫌になるよね」

「あなたは抜け出せたんだから」

 いいじゃない、とは言わない。

 やっぱりエリザベスって賢いというか、根っからの商人なんだろうな。

 いい忠告を貰ったと思おう。


 私には前世の人の記憶があるから、社会がもっと優しくなれることを知っている。

 身分なんかなくなっても問題ない。

 でもそれって技術とか常識とか、色々な事が変わらなければ実現しない事なんだよね。

 前世の人の世界でも、数百年前は今の私たちと同じような状況だったみたいだし。

 それからコツコツと働いて進歩していったんだろうな。

 よし。

 私は無理をしない。

 現状を変えたり理不尽とむやみに戦ったりしないようにしよう。

 何より自分が大事だから。

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