41.正統な血統
男爵家からは毎月お小遣いを頂いているけど、これは臨時収入になる。
何せ学院に通っている貴族令嬢にはお金を稼ぐ方法がないからね。
あっても無理だ。
バレたら貴族令嬢にあるまじき行為だとされて追放されてしまうかも。
例のサークルだか何だかに参加してからは結構物入りなので助かった。
だってあのお部屋に行ったら何かしらのおやつとかお茶とかが用意されているのよ。
みんなが持ち寄るのが暗黙の了解だ。
私も持参しないわけにはいかない。
それに腐っても貴族令嬢の集まりだから、平民丸出しの駄菓子とかは出せないし。
お茶も珍しい外国のものとか有名な高級品とかだもんなあ。
そういう品は貴族御用達のお店で買えるけど、高いのよ。
これについてはエリザベスは頼りに出来ない。
でもアドバイスはくれたりして。
「お店で買うのは下策ね。自分で作りなさい」
「自分で? 貴族が料理したりしてもいいの?」
「晩餐とか本格的なコース料理は駄目だけど、貴族女性の嗜みとしてお菓子を作るのは認められているわよ。
もっとも高位貴族家ではやらないけど」
そういえば私の前世の人の記憶でも、ヒロインはよく手作りのクッキーなんかを攻略対象に食べさせていたっけ。
魅了の魔力が込められていたりしてトラブルの元だったような。
「でも下手だし」
「いいのよ。貴族令嬢の手作りという所に値打ちがある。
でも殿方や高位貴族の方に差し上げたら駄目よ。
何かあったら首が飛ぶから」
当たり前でしょう。
差し上げた殿方が誤解されてしまいそう。
それに高位貴族の方々が毒味もせずに誰が作ったのか判らないようなお菓子を食べるわけがない。
渡そうとしただけで警備の人に拘束される。
「ところでお料理は出来るの?」
エリザベスが疑わしそうに聞いてきたけど、それは大丈夫。
孤児院で作っていたからね。
まあ材料を切って鍋に放り込むとかそのレベルだけど。
でもパンも焼いていたからお菓子も何とかなるはず。
釜やなんかは伯爵家本邸の台所が使えるし。
実は、賄いを分けて貰う代わりに私も料理を手伝っているのだ。
男爵令嬢なんかそんなものよ(笑)。
「そういえばあなたって孤児院出身だったわね」
エリザベスが逆に感心してくれた。
ご本人は富豪の娘で上げ膳据え膳で育ったこともあって、そういう技能は皆無だそうだ。
「お貴族様なんだ(笑)」
「血筋で言えばあなたの方が正統なんだけどね」
エリザベスは笑うけど、これって失言なんじゃないかな。
お父上は平民上がりとはいえ、国王陛下に認められて男爵位を授爵したんだから正統な貴族と言っていい。
エリザベスは正室? の実子だ。
堂々たる貴族令嬢と言える。
これに対して私は男爵令嬢と言っても嫡子じゃない。
私の父親が前サエラ男爵様なのは知られているけど、母親は平民だとされているはず。
私の母方の祖父が某高位貴族家の方だということは、私も知らない事になっている。
前世の人の記憶で知ってるけど。
これは今のサエラ男爵様も知らないはずの事実で、つまり本当ならエリザベスだって知ってるはずがないのよ。
にもかかわらず「私の方が正統」と。
エリザベスも失言に気づいたみたいで一瞬、顔が引き攣った。
私は何とか表情を変えずに「サエラ男爵家だってそんなに歴史はないわよ~」とつなげることが出来た。
疲れる。




