エピローグ
そして時は流れて入学式の日がやってきた。
そう、なぜか神聖軍事同盟付属学院には入学式や学年(期)や学科がある。
私の前世の世界と違ってこちらでは斬新な発想だけど、合理的に考えて決めたらそうなってしまったそうだ。
年齢に関わりなく同じ教育を施すためには横一列で一緒に入学させた方がいい。
学年は何期生という形で区切るため。
クラスは教育を効率化するためには不可欠。
正確に言うとクラスというよりは大学の「○○学科」みたいなものらしいけど。
前世の世界の教育方式にもそれなりの利点があるということね。
私は当日の朝になってもどこかのんびりしていた。
色々思う所はあるけど、ここまでお膳立てされては今更足掻いても仕方がない。
それに私が何をさせられるのかというと、ただ見学していればいいことに気がついたのよ。
だってこの学校、テレジア王立貴族学院で言ったら上級講座しかない。
いきなり専門知識を学ぶ、というよりは既にある土台から初めて研究を重ねていく場だから。
テレジアの学院と違って学生は最初から専門講座というか研究室に所属する。
「政策科」「経済科」「戦略研究科」なんかは露骨に専門家しかいない。
「兵器開発科」なんていう学科もあって、そこなんか実際には試作工場や研究所だとか。
もちろん私の前世の人の絵物語に出てきそうな「騎士科」とか「官僚科」みたいなものもあるんだけど、それはまだ学生が揃ってないどころか何をすればいいのか模索している最中だから。
それでも学院が開校するということで、とりあえず入学式があるそうだ。
「学院長のご挨拶の後、各学科の紹介などがある予定でございます」
さようで。
私はまだ学科に所属していないので、ていうか大半の学生はそうなんだけど、ぼやっと聞いていればいいみたい。
支度をしてこっそり神託宮を出て目立たない馬車でまず寮ということになっているお屋敷に入る。
エリザベスを初めとする私の護衛というか取り巻きとというかの人たちが整列して迎えてくれた。
「よろしくお願いしますね」
「「「「「御意」」」」
揃った。
エリザベスと二人になった時に聞いてみると、この人達は実際にも学院の学生で将来は前世の世界でいう国防省のような組織の職員になる予定だそうだ。
それも同盟の盟主の直属というか、秘書みたいなお仕事担当だとか。
「諜報や護衛も兼ねるから。
ある意味、入学前から実習みたいなものね」
エリザベスはというと盟主の特別秘書みたいな立場だとか。
「上手くやったわね」
「でしょ。
何か私にしっくりくるお役目なのよね」
乙女ゲームのヒロインのサポートキャラだからなあ。
適材適所かも。
そろそろ時間が迫っているということで、エリザベスを含めた数人で固まって馬車に乗る。
「護衛?」
「それもあるけど寮住まいの学生が一緒に登校するという設定ね。
ちなみに他の者もばらけるけど学院内では近くに居るから」
さいですか。
馬車は順調に走っているけど、だんだん周囲が寂しくなってくるような。
「ちょっと郊外に建てられたらしいわ。
新築だって」
お金を使いまくりだな。
やがて馬車はだだっ広い広場を抜けて平べったい建物の前で停まった。
「ここが学院なの?」
「エントランスね。
実は学院の施設の大半はまだ建築中で」
見切り発車したと。
それもそうか。
だってまだ学生も集まってないし、教授連も決まってないと聞いている。
形だけ作ってとりあえずスタートしたんだろうな。
と言っても既に動いている部署もあるから、無謀というわけでもない。
私達が第一期生ということになるのか。
入学式の会場は何も無い広場だった。
まだ講堂みたいな建物も出来てないたみい。
こんなんで大丈夫なの?
エリザベスと並んで坐る。
椅子は折りたたみ式だった。
何か変に技術的に進歩してるのよね。
周囲をさりげなくエリザベスの部下の人たちが囲んで人払いしたところでエリザベスが囁いてきた。
「気になる事があるんだけど……私達が初めて会った時の事、覚えている?」
「ええと」
テレジア王立貴族学院の中庭だったんだっけ。
お昼を食べようとしていたらエリザベスが話しかけてきたんだった。
あの時は「乙女ゲームのサポートキャラ来た!」とパニックになったんだけど。
「覚えてるけど」
「あの時、貴方は私に高位貴族家の先輩の事を尋ねたでしょ。
私も知らなかった人たち」
「そうね」
そうだった。
乙女ゲームの攻略対象がどうなっているのか、サポートキャラに聞いたんだった。
今となっては懐かしい思い出だけど、それが何か?
するとエリザベスは怖いくらい真剣な表情で言った。
「タラ公爵家のラキア様、マリム侯爵家のロット様、ホイットコム侯爵家のソラルナ様、そしてレットルナ辺境伯家のユオ様だったわよね。
ちょっと思い出して調べて見たんだけど……その方達、全員この学院に在籍されていたり今度入学することになっているわよ?
皆さん、廃嫡されたり出奔したりして元の実家と家名は違うんだけど、それぞれ実力でのし上がってこられたみたいで。
マリアンヌ、何で知ってたの?」
ここで乙女ゲームが始まるのかよ!
(「転生ヒロインの学院生活」終わり)
というわけで終了です(笑)。
敵大陸との戦争はどうなるのとか、マリアンヌのお相手は? などという疑問はおありでしょうが、それは不明です。(考えてない。好きにして)
前作の「厨二病」シリーズを書いてみて、やっぱり現代物は疲れるなと思いました。
何せ現実とかけ離れたことは書けないし(やったら現代物ではなくなってしまいます)、かといって矛盾がないような展開にしようとすると単なるドラマになってしまいます。
私はSFが好きなんです。
それを含めて疲れたのでしばらく充電期間というかサボッていました。
その間に突然倒れて死にかけて緊急入院したり、その原因を取り除くために手術入院したり、終わったと思ったら全然別の理由でまた緊急入院になったり。
実質九ヶ月で3回も入院したりして。
三回目になると慣れたもので、ノートPCを病室に持ち込んでキーを打ちまくっていたんですが、退院したら何かやる気が失せてしまいました。
それでリハビリのために適当に始めたのがこの「転生ヒロイン」です。
この作品は「なろう」を席巻している異世界学園物の設定に耐えられなくなったから否定してやろうというネガティヴな動機から始まりました。
特に憤りを覚えたのは「なろう」発の某テレビアニメで、高位貴族令嬢が太ももの付け根まで丸出しのミニスカで国王に謁見しているシーンでした。
それ、学園の制服だったりして(笑)。
封建社会でそんなわけあるかーっ!
だって並んでいる王家の家臣たちはみんな重厚な中世の貴族服なんだよ(泣)。
大体、王族や高位貴族と平民が同じクラスで同じ勉強して定期テストで点数競うって何なのよ。
将来必要な知識が全然違うのにそんなことさせてどうする。
貴族と平民がため口だったり一緒の班で実習するとか、そんなことしてる余裕あるのか?
ていうかクラスとか学年とか無理でしょ。
というような疑問点を片っ端から論って異世界学園物をおちょくってやろうという邪な動機から始まった物語ですが、ついうっかりタイトルを「学院生活」にしてしまったので、もうこれは責任取るしかないと。
なのでヒロインは学生です。
公爵になっても教授になっても巫女になっても盟主になってもずっと。
ヒロインの学院生活が続きます。
というわけで全体が壮大な駄洒落というか冗談みたいになってしまいました。
長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。
次は……どうするかなあ。




