36.嫁入り目的
「まあ実際には何の修了書もなくて退学したら社交界では相手にされないけれど」
「そうなの?」
「そうよ。それはつまり将来貴族としてやっていく気持ちがないと見なされるから。
あのね、貴族家の出でも平民になるのなら学院も修了書もメダルもいらないでしょ。
だから」
なるほど。
やっぱり貴族の矜持ね。
いくら高位貴族に認められたからと言って何も出来ないのに嫁に行ったりしたら社交界では顰蹙を買う。
小説の私、そこら辺大丈夫だったんだろうか。
だって私の前世の人の世界と違って現実だと勉強が出来るとか愛想がいいとかではどうにもならないんだよ?
最低でも貴族令嬢としての礼儀や技能、常識なんかを身につけて、しかもそれを証明出来るメダルとかを持ってないと相手にされないのに。
だから石に齧り付いてでも学院で頑張るしかない。
それまでは辞められない。
「でも、いつまでたっても在籍していると行き場がないと思われるわよ」
「それは拙い」
出来るだけ早く退学出来るように務めよう。
あ、そういうことか。
小説で私が攻略対象にアタックするのは露骨に嫁入り目的だったわけだ。
いやそれにしては高位貴族の子弟、しかも爆弾を抱えた人たちだけって意味不明だけど。
正室ってどう考えても無理でしょ?
ひょっとしたら妾とか愛人狙いだったのかもしれない。
まあ、私は小説の恋愛脳じゃないからそんな無謀なことは考えない。
大体、高位貴族の殿方とは知り合うどころか接触すら難しい上に、小説での攻略対象の人たちってもう全滅しているもんね。
気にしないようにしよう。
ていうか忘れなければ。
私が実は血筋が絶えかかっている高位貴族家の落とし胤だってことは知らない事になっているんだし。
下手に動いたら拙い気がする。
ここは何も知らないふりで通そう。
エリザベスに色々聞きながら学院内を見て回る。
もともとお城なのでお部屋はたくさんあった。
でも廊下が狭い上に不必要に曲がり角が多い。
「ここは砦だったから」
なるほど。
戦闘用に設計されているわけか。
攻め込まれた時に守りやすくなっているんだろうな。
「それにしては建物の周りが広くない?」
「元は色々あったみたいだけど片付けたそうよ。
でも建物は修復しようがなくて」
「それもそうか。
というよりは敢えて改修する必要がなかったと」
「でしょうね」
おかげで今、私たち生徒が窮屈なんだけど。
そう、お城って大きいけど中は結構狭いのよ。
私の前世の人が読んだり観たりしていた王宮やお城って、もの凄く広い廊下とか広間とかがあったんだけど、実際にはそんなことはない。
狭い部屋がいくつもあるだけだ。
不思議に思って「始まりの部屋」で知り合った令嬢に聞いたら教えてくれた。
その方は何でも建城師の一族だそうで、そういう技能職が貴族として代々技術を受け継いでいるそうだ。
その方曰く、巨大な石造りの建物は内部に空間を作ると強度が減る。
だからなるべく狭い部屋にして、分厚い壁や太い柱で強度を稼ぐ。
それと同時に戦闘用の建物なので、万一敵に攻め込まれたときのために敢えて複雑で動きにくい構造にしてあるという。
砦だったら尚更で、テレジア王立貴族学院の建物は露骨にそれだったらしい。
そんな建造物だから平和になったら使い道がなくて、朽ち果てるところを学院として廃物利用しているとか。
生徒はいい迷惑だ(泣)。




