368.ヅラ
「ご心配には及びません。
マリアンヌ様におかれましてはヅラをつけて頂くことになっております」
ロメルテシア様に言われて気がついた。
それはそうだよ。
桃髪なんか晒して登院したら一発でバレるに決まっている。
「ヅラは?」
「こちらに」
案内された部屋のテーブルにはヅラがずらっと並んでいた。
いや駄洒落じゃなくて。
「こんなに?」
「お好きな色が不明でしたので」
なるほど。
私が好きか嫌いかという以前に似合うかどうか判らないものね。
それにしても種類が多い。
金髪、銀髪、赤毛から灰色、紫色まである。
もちろん茶髪や黒髪も。
髪質や長さも色々で、この中から自由に選んで良いと。
「髪型についてはいかようにも」
「うん、判った」
いやツインテールとかドリルとかは勘弁だけど。
とりあえず長い黒髪のヅラを被って姿見の前に立ってみたら、何というか。
「よくお似合いでございます」
「それはそうかもだけど」
何か不自然なのよね。
いや、似合わないとか変とかいうわけじゃない。
私は細身でロリ体形の美少女なので、基本的に何を着てもどんな格好でもそれなりに見栄えがする。
服装によってお子様になったり清楚なお嬢様になったり、あるいはゴスロリになったりするけど似合わないということはない。
だけど、問題はどんな格好をしても目立つのよ。
地味な茶髪にしてみたけどやっぱり美少女になってしまった。
私の前世で言うと外見的には十代前半?
「……よくお似合いでございます」
「駄目でしょう!
こんなのが学院に入ってきたら別の意味で目立ちまくりよ」
だって神聖軍事同盟付属学院って私の前世の世界で言うと大学なのよ。
そんなところに女子中学生にしか見えない美少女がいたら目立つなんてもんじゃない。
「却下」
ロメルテシア様が無言で見守る中、私は色々と試してみた。
どんなヅラをつけても美少女は変わらなかった。
「気がつかなかったけど私、この桃髪が一種の隠蔽になっていたみたいね」
「そうでございますね。
あまりにも衝撃がありすぎる髪色でございますので。
それ以外の特徴がぼやけてしまっております」
それをのけたら普通に小柄な美少女が残ったと。
もう18歳なのに!
「いかがなさいますか?」
ロメルテシア様が聞いてくるけどしょうがない。
「これにします」
私が最終的に選んだのはやや栗色がかったハーフロングのヅラだった。
テレジアにはよくある色で、ストレートの髪質はいかようにも装える。
前髪を長くすれば顔立ちもある程度は隠せそう。
特にテレジアの「王家の瞳」はまた別の意味で目立つから、それも隠さないと。
メガネは嫌だから前髪を伸ばそう。
「それでもマリアンヌだからな」
メロディには言われたけど、これなら埋没は出来ないにしても目立たないでしょう。
「どうかな。
淑女というだけで目立ちそうだが」
まあ、学院も男社会だろうしね。
だって士官学校だから。
「大丈夫でございます。
護衛をつけます」
エリザベスをリーダーとするお友達が常に守ってくれるらしい。
よし、これで行くか!




