366.王位継承権
ちなみに学院の制服は私の前世の小説や絵物語風ではなく、ごく普通の日本の学生服だった。
男は詰め襟のガクラン。
女性用はブレザーなんだけどスカートの丈が足首が隠れるくらい長い。
さすがに生足を出すわけにはいかなかったみたい。
それでも私の前世日本のお坊ちゃまお嬢様学校なら有りかな? というところまでカスタマイズされている。
「斬新だと評判でございます」
ロメルテシア様が教えてくれた。
「それはそうでしょうけど」
「身分を一時的に停止する、という状況を容易に実現したことで、さすがはマリアンヌ様だと」
何で?
「私は関係ないのに」
「メロディアナ様が」
あの女!
一見、功績を譲っているようでいて単に私を風避けにしているだけだ。
自分は表に出ないで好きな様に物事を進めるって愚王を操る悪宰相かよ!
まあしょうがない。
もっともメロディが期待しているほどには隠蔽は効いていないようだった。
何せシルデリアの第一王女だ。
その肩書きだけでも目立っているのに、最初から巫女の側近として行動するどころか王女様たちのリーダーをやっていた。
しかも神聖軍事同盟の設立や運営にも深く関わっている。
そんなのが学院をウロウロしていたら誰でも判る。
奴が黒幕だ、と。
「メロディアナ様には学院長になって頂きます」
ロメルテシア様が宣言した。
「しかしだな」
「他に適当な人材がおりません。
神聖軍事同盟からは人を出せませんし、どこかの国の者に任せたら均衡を欠くことになります」
「私だってシルデリアの者だぞ」
「もはや誰もそうは思っておりませんので」
そうよね。
メロディは神聖軍事同盟にあまりにも深く関わりすぎている。
だって同盟の根幹を設計したのはメロディなのよ。
それは準備委員会にいた者なら誰でも知っているし、その人達の大部分はそのまま神聖軍事同盟の中堅幹部になっている。
更に理事も申し送りを受けているみたい。
何よりシルデリアの国王陛下がメロディに引導を渡したと聞いた。
「メロディ、シルデリアの王家から除籍されたとか聞いたけど」
これはロメルテシア様だけじゃなくて専任侍女とかの複数の経路で入って来た情報だ。
「それは」
「表向きはメロディが神聖軍事同盟の活動に専念するために元の身分が邪魔になるということで」
言ってやるとメロディはがっくりと膝を突いた。
「除籍じゃ無い。
王位継承権を放棄しただけだ」
「ああ、身分はまだシルデリアの王女なのね」
「そうだ。
神聖軍事同盟の件は表向きだな。
実際には、私を連合王国の女王に祭り上げようという連中が五月蠅くなってきて」
メロディによれば連合王国内でもともと高かった評判が今回の件で鰻登りになってしまっているらしい。
シルデリアはサラナ連合王国の一部なんだけど、各国の国王の中から代表というか筆頭国王が選ばれて連合王国を統治している。
今はメロディの祖父上がシルデリアの国王と兼務で担当しているんだけど、そろそろ歳なので王太子に立場を譲って引退する話が進んでいるらしい。
「メロディって王太子殿下の第一子だったっけ」
「そうだ。
だから父上が国王になったら私が立太子させられそうでな。
それだけじゃなくて一部が暴走して」
一足飛びに連合王国の女王にされそうだと。
「大出世ね」
「馬鹿を言うな。
がんじがらめにされて身動きが取れなくなるだけだ」
「それで王位継承権を放棄したと」
「うむ。
私にはまだ幼いが弟がいるからな。
父上もまだまだ元気いっぱいだし弟が成人するまで十分保つ」
その言い方はどうかと思うけど。
「なので先手を打って逃げただけだ」
「シルデリアはどうするの?」
「知らん。
色々とやらかしたからな。
ここらで手を引きたい」
それで帰国もせずにミストアに居座っているわけか。
「ということですので、メロディアナ様は神聖軍事同盟の幹部であられると同時に学院を統率して頂きたく」
ロメルテシア様の圧が凄い。
この人が真の巫女というか、裏の支配者なんじゃないの?
「私はまだ成人して数年だぞ。
そんな大役を」
「年齢は関係ございません。
マリアンヌ様は盟主でございます」
ロメルテシア様にやり込められて黙るメロディ。
「それに、メロディアナ様が学院を代表するのでしたら予算を通しやすくなるとは思いませんか?
それどころか巫女として神託宮の予算が使い放題」
悪魔の囁きだなあ。
メロディは「うっ」と言ったきり黙ってしまった。
墜ちたな。




