361.専門職大学
学院の講座のいくつかは既に本格稼働していて、その他にもリアルタイムで新しい講座が増え続けている。
そういった講座では見学や視察的な参加を受け入れているそうだ。
対象は今のところ神聖軍事同盟に参加している各国の政府から推薦を受けた候補生で、自分が参加するかどうかの判断材料にする他に神聖軍事同盟付属学院の実態を母国の政府に報告する義務を負っている。
「それだけではなく、学院側も候補生を査定します。
水準に満たなければお断りすることもございます」
厳しい。
テレジアの王立貴族学院をモデルにしたという割にはスパルタなのでは。
私なんか絶対撥ねられそう。
晩餐の席で愚痴ったらメロディが笑った。
「あれは方便でな。
実際には我々の前世の世界にあった大学をモデルにしてみた。
というよりは大学院かな」
「そうなんだ」
「私も前世では高校までしか知らないんだが、大学や大学院の情報はそれなりに出回っていたからな。
その中でも『専門職大学』という学校を参考にした」
「そんなのあったっけ?」
メロディは肩を竦めた。
「新しく、と言っても前世の私が生きていた時代だが、出来たんだよ。
大学は建前上、研究者を育てる機関ということになっていたんだが、そうじゃなくて実務の高度専門家を育てる教育機関を作ろうということで」
へー。
知らなかった。
だって私の前世の人って理系バリバリで、大学行って研究者になろうと思っていたみたいなのよね。
だから大学院とかの知識も一応あるんだけど、それってどこまで行っても学者だったし。
現場の専門家養成用としては専門学校という機関があったと思う。
どう違うんだろう。
「専門学校は専門技能職というか、職人を育てる学校だったはずだ。
だが神聖軍事同盟に必要なのは高度専門職だからな。
前世の世界で大学に相当する知識を身につけた上で、高度な専門知識と技能を習得する必要がある」
メロディっそんなことまで考えていたのか。
やっぱり怪物よね。
「それって普通の大学では無理なの?」
「無理というか、そういう教育形態になっていないんだ。
例外は医学部とかで在学中に専門技能的な実習や演習がある。
実はそれでも不十分なんだが」
なるほど、お医者か。
確か医学部って卒業まで6年間学ぶのよね。
獣医学部もそうで、卒業試験とは別に国家試験を受けて免許を取らないと医者や獣医になれなかったっけ。
「法律家もそうだな。
確か法科大学院を出ないと司法試験の受験資格が貰えなかったはずだ。
うろ覚えだけど」
いや、女子高生がそれだけ知っていたら凄いよ。
「ああ、だから専門職大学と」
「そうだ。
在学中に現場で使う技能や知識を学ぶ必要がある。
とはいえ、実際にはちょっとアレンジしてあるんだけどな」
メロディ、もう何光年も離れた所を飛んでない?
誰もついていけないって。
「それって?」
「士官学校って言っただろう?
我々の前世の国だけじゃなくてどの国でも同じだったと思うが、兵隊じゃなくて士官を養成する学校って普通は高等学校を卒業した学生をそのまま受け入れるんだよ。
実社会で責任を持って働いた経験がない者を軍隊色に染め上げるというか」
「士官学校ってそういうものなのでは」
「うん。
だが、神聖軍事同盟が求めているのはただ単に専門家というだけじゃなくて、現実や現場も知っている参謀なんだ。
机上の空論ばかり振り回す奴は必要ない」
ああ、確かに。
だって戦争なのよ?
私の前世の世界でも、現場や現実を知らない貴族や上級士官が無茶な作戦を立てて兵士が無駄死にするような話が多かった気がする。
あまりよく知らないけど。
「それでどうしたの?」
「ちょうどいい参考書があったのを思い出してな。
○インラインという作家が書いた小説なんだが」
「あ、知ってる。
SF作家よね」
「そうだ。
本人も作家になる前は軍隊の士官だったんだが、小説の中で理想の士官学校を書いているんだ」
でもそれ、小説よね?
思わず疑惑の表情になってしまった私を見たメロディは慌てて言った。
「もちろんそのままじゃない。
学生の条件を持ってきただけだ」
「というと?」
「その小説では主人公が志願して軍隊に入るんだが、当然だけど一兵卒から始める。
高校を出てすぐに入隊で」
「私達の前世もそうだっけ」
「だな。
その辺りは作者の経験からだろう。
でも軍隊なんだから兵隊だけじゃなくて士官や将軍も必要だ。
主人公は順調に出世して下士官になるんだが、あるとき上官から士官学校入学を勧められる。
その士官学校は入学の条件として『実戦経験』が必要なんだ」
「ええと。つまり兵隊として最低一度は戦場に出た経験があると」
「そうだ。
実際の戦場を兵隊として経験して、なおかつ生き残った者。
さらに上官の推薦がないと入学出来ない」




