357.英雄伝説
「王女様方が連絡網を作っているの?」
「ああ。
他国との伝手はそれだけで大きな力になる。
増してミストアの巫女と直接繋がっているんだぞ。
その王家の中では突出した有利さだ」
それで「マリアンヌの奇跡」とかいう戯れ言がまかり通っているのか。
王族って怖い。
「まあ、マリアンヌには関係の無い話だ。
後援だと思えばいい」
「それはそれで怖いけど」
「私が統制する」
メロディの顔が黒い。
もう駄目かも。
まあいいや。
それから毎日が飛ぶように過ぎて行った。
私の18歳の誕生日にはミストア全土で盛大なお祝いが開かれた。
何の事はない、神託宮がお金を出して全土でお祭り騒ぎをやっただけなんだけど。
神聖教とは関係がないので面倒くさい儀式とかはなかった。
助かった。
予定よりかなり遅れて神聖軍事同盟の議会式場が完成し、私も呼ばれて開会宣言したりして。
議場というか神聖軍事同盟の建物は斬新な設計だった。
私の前世の人がテレビという動画放映装置で観た「イーユー」とかいう国家連合の建物に似ている。
「ひょっとしてあれ、参考にした?」
メロディに聞いてみた。
「まあな。
ニューヨークの国連本部って単なる細長くて高いだけのビルだから。
そんなのを参考にしても始まらないだろう」
「いや、私にはよく判らないけど。
ていうこれもメロディが作ったの?」
「まさか。
学院の建築講座に示唆しただけだ」
ミストアの巫女に示唆なんかされたら無条件で取り入れるしかないでしょ。
それにしても学院に建築講座なんかあったのか。
「何でもあるぞ。
というよりは作った。
今も作っている最中だ」
さいですか。
神託宮の予算は無尽蔵だし、メロディはそれを自由に使えるんだった。
「大したことはない。
もっと盛大に使っている分野がある」
「何に?」
「軍事技術の開発だ」
そうだった。
神聖軍事同盟は戦争のための組織なのよ。
戦略や戦術はともかく、兵器の研究や開発は必至というかむしろ必然だ。
「やっぱり飛行機とかミサイルとかを作ってるの?」
「馬鹿いうな。
学院でやっているのは基礎研究だよ。
具体的な設計や開発は各国に任せている」
メロディの話では、神聖軍事同盟直属の技術開発部門が手がけるのは各国が手を出しにくかったり費用がかかるわりに直接的な効果が望めない基礎部分の研究だそうだ。
金属の精錬加工技術の開発とかより高速で走れる船の試作とか。
「原型となる基礎設計図を同盟各国に配布する。
もちろん国は選ぶ。
海がない国に戦艦の設計図を渡しても無意味だからな」
なるほど。
「つまり大陸全体の戦争技術の底上げをやっていると」
「そうだ。
当たり前だが開発結果は各国に公開する。
とはいえ、諜報員もいるからそういった状況は隠蔽しているけどな」
メロディによれば神聖軍事同盟自体が目的を偽っているそうだ。
これだけ大規模な事をやって隠しおおせるはずもないので、神聖軍事同盟の存在は公にしている。
だけど一般的には単なる国際的な協議組織でしかないことになっているらしい。
「あながち嘘じゃないぞ?
実際、いくつか分会を開いて国際問題解決の役にたっているしな」
「国連の機能ね」
「それをカモフラージュにして大陸全体を戦時体制に持っていく。
気がついたら同盟軍が結成されていたという形にしたい」
メロディは楽しそうだった。
前世の人ってよほど好戦的だったのかも。
ん?
何か引っかかる。
「こちら側は同盟軍なの?」
聞いてみた。
「神聖軍事同盟の軍なんだからそうだろう」
「ひょっとして敵の大陸の軍って帝国軍?」
「……どうも向こうは帝国を名乗っているみたいでな。
そうなる」
メロディ!
そんなところで遊ばないでよ!
向こうは銀河帝国じゃないし、こっちだって自由惑星同盟じゃないんだから!
「いいだろ。
少しは楽しませろ」
「だってあの物語だと同盟は滅ぶんだよ?」
「心配ない。
向こうにラインハルトがいない限りは大丈夫だ。
こっちにもトリューニヒトがいないからな」
「ヤンもいないでしょ!」




