352.盟主
神託宮に戻って巫女衣装を脱がしてもらい、気楽なドレスに着替えて居間でまったりとお茶を……いやお腹が空いていたので夜食を作って貰って食べた。
会場では本当に何ひとつ口に出来なかったからね。
そういえば国王陛下方もほとんど食べていなかったような。
「そういうものでございます」
もったいない。
あそこにあった豪華な料理はどうなるんだろう。
「下げられて職員の賄いになります」
専任メイドが教えてくれた。
それは良かった。
孤児院時代が長かったから、食べ物が無駄になるのかと思うとそれだけで心苦しくなるのよ。
自分とは何の関係もなくてもそうなんだから、国王陛下が食べるような最高級のお食事が手も付けられずに捨てられたりすることを想像しただけで心が痛む。
「問題ありません。
神官たちが食い尽くします」
さいですか。
まあ、そうだろうな。
忘れよう。
数日後、神聖軍事同盟の正式な立ち上げ式典が開催された。
これは神聖教とは建前上は無関係なので、会場は新しく建設された神聖軍事同盟専用施設だ。
祝典は盛大だった。
私は神聖教の教皇猊下と並んで貴賓席というか、むしろ立会人席に座っていたんだけど、同盟の第一回総会の最初の議題として盟主の指名が行われた。
ちなみに理事は各国の国王陛下だ。
理事長はまだいないので暫定的にミストア神聖国の首相だか大統領だかが務めるらしい。
そう、ミストアも同盟の一員ではあるから理事を出している。
満場一致で盟主は私に決定(泣)。
形式的に教皇猊下に依頼されたんだけど、猊下は柄じゃないと言って断り、代わりに巫女が推薦されたのよ。
そういう筋書きだったらしい。
つまり私は厳正中立なミストア神聖国の教皇代理というか名代という名目で同盟の盟主をやらされることになる。
盟主のお役目は理事会で決定された法案や計画を承認することだ。
もちろん承認を拒否することも可能なんだけど、理事会は盟主が音を上げるまでしつこく提案し続けることが出来るのよね。
何のことはない、お飾りのトップだ。
「そんなことはございません」
何の権限なのか立場なのか知らないけど、私の側についてくれているロメルテシア様が言った。
「盟主は自ら提案が出来ます。
ご自身で配下を組織することも可能で、そのご予算もとってあります」
さいですか。
メロディめ。
自分が好き勝手やりたくて決めたな。
お金は私に払わせて自分が影で色々と動くつもりだろう。
まあいいけど。
指名されたので立ち上がってご挨拶する。
特に演説などせずに坐った。
万雷の拍手。
好きにして。
それから私は盟主としての最初のお役目として第一回理事会の開催を宣言した。
そういう予定なのよね。
理事会の最初の議題は理事長の選出で、これは予め根回ししていた通りに持ち回りで担当することが承認された。
理事は代理を指名出来ることも決まり、これを根拠に各国の国王陛下が同盟の理事職を名代に丸投げ出来る。
大使みたいなものかな。
こう書くとさっさと進んだように見えるけど、実際には何せ参加者が多いし皆さん慣れていないのでトラブルが続出。
だって理事は国王陛下なんだよ。
何でも自分が一番と思っている人たちが合議制の会議なんかで大人しく出来るわけがない。
根回ししているはずなのに、土壇場であれこれ言い出す人が何度も出て会議は紛糾した。
その間、私は教皇猊下と並んでじっと坐っているだけだった。
3時間くらいたってさすがに色々と耐えられなくなってきたところで議長が休憩を宣言してくれた。
助かった。
思わず教皇猊下を観たら穏やかに見返された。
さすが。
「猊下は平気なのですね」
「慣れました」
小声で教えてくれたところによると、ミストア神聖教の枢機卿会議はこんなもんじゃないそうだ。
下手すると半日くらい解放されないこともあるらしい。
「立場上、譲れないことも多くありますので。
こういうものは調停しようとしても無駄です。
収まるのを待つしかありません」
なるほど。
「ですが、今回は実質的に私共には何の関係もございません。
なので」
逃げられた。
私も続こうとしたら「盟主が理事会を欠席なさるというのは」とか言われて断られた。
メロディはどうしたんだよ!
逃げたと言うよりは最初からいなかったみたい。
それは他の王女の皆様も一緒で、今頃はどっかでまったりとお茶でも飲んでいるんだろう。
こっちは拷問だというのに!
30分くらいで理事会が再開されたけど、いったんクールダウンしたせいか理事の皆様の熱意も失せていて、それからはすんなりと進行した。
助かった。
1時間くらいで予定されていた議事が全て検討が終わり、最後に盟主が第一回理事会の閉会を宣言。
やれやれ。




