34.貴族はぼっち
エリザベスによると、そもそも貴族家の人間が誰かと知り合う機会はとても少ないそうだ。
貴族というだけで平民は逃げてしまうし、貴族同士も滅多に会わない。
会う理由がない。
子供の頃でもちょっと遊びに、というわけにはいかないらしい。
「貴族の子弟がフラフラ歩いていたらすぐ攫われるから。
そうでなくても襲われる。
本人に値打ちがなくてもいいもの着ているからね。身ぐるみ剥がされてポイ」
「確かに」
「それでも外出しようとしたら護衛が必要になるけど、結構大変よ?
人手もお金もかかる上に何かあったら責任問題だから臣下は誰もやりたがらない。
特に高位貴族の子弟なんか何日も前から先触れしないといけないし」
さようで。
そういえば私の前世の人の記憶でも、小説の中では貴族がお友達の家に遊びに行くときにはまず約束していたな。
あれって正しかったのか。
「私なんか男爵家に入ってからも結構出歩いていたけど」
不思議に思って聞いたら笑われた。
「地方の領地ででしょ。領地貴族のお嬢様をその領地で襲うって危なすぎるからよ。
それに」
エリザベスは私をみて言った。
「あなた、今でも何となく平民臭がするのよね。平民ってそういうところは敏感だから」
さようですか。
それがために私は守られていたと。
「そうか。王都に出てきてからも安全だったのはそのせいか」
「でしょうね。
あなた、誘拐や追い剥ぎしてもあんまり旨味がなさそうな雰囲気があるのよ。
それでいて貴族の令嬢だから、無頼漢も手を出したくなくなる」
前世の人の言葉で言うとハイリスクローリターンというところか。
笑えばいいのか泣くべきなのか。
いや、良かったと思おう。
その後、エリザベスに教えて貰って受講する講座を決めることに。
教授というか指導役の人がそれぞれ専門の単元の講座を受け持っていて、生徒が自由に選んでいいそうだ。
どの講座を受講するのも自由だけど、教授が「お前には無理だ」と判断したら拒否されることもあるらしい。
人気がある講座は欠員待ちになることも。
「内容もわからないのに」
「だから受けたい講座があったら試しに入門してみることね。
でも最初から専門性が高い所は無理だから」
そう、誰でも出来そうな事から何年もかかって学ぶ事まで色々あるらしくて、生徒は自分のレベルに合った講座を見つけるまで試行錯誤するらしい。
正式に参加する前に後ろの方で教授のお話を聞くことが出来るそうで、教授も正式な生徒も無視してくれるそうだ。
イケると思ったら申し入れて許されれば参加と。
「エリザベスはどんな講座なの?」
「私は王国の歴史と経済ね。あと地理も。商売には不可欠だから」
全然、参考にならない。
「あ、それから必修の講座もあるわよ。というか受けないと生徒で居る意味がないというか」
「それって?」
「社交」
ああ、そういう。
つまりは定期的にパーティに参加したりお茶会したりといった、生徒間交友のための講座、というか場?
「そう。略式のお茶会でおしゃべりしたり、ちょっとした行事やったり」
「略式って?」
「正式だと礼儀だのドレスコードだので大変よ?
だから気軽にということで」
「それはいいなあ」
お友達は無理でも知り合いは増やせそう。
「ダンスパーティとかもそこでやるから」
「ああ、確かに。知り合いや縁故ってそこでしか出来なさそうだもんね」
「そうそう。
これは単元じゃないから在学している限りは参加出来る」
私の前世の人の学校でいうと、それって授業じゃなくてむしろクラブとかサークルなんじゃないかな。
学院の生徒にとってはそれが一番重要という気もするけど。
とりあえずということで、私はその社交クラブだか何だかに参加することにした。
後の事は後だ。




