348.式典
「いくつか、代表の到着が遅れている国がある」
「どうしても間に合わない場合はいかがなさいますか?」
「延期するわけにもいかないからな。
見切り発車しかなかろう」
私そっちのけで議論というか打ち合わせに入るメロディとロメルテシア様。
ここ、私の居間なんだけど。
まあいいか。
ちなみにメロディもロメルテシア様も神託宮に自分の執務室を持っている。
それどころか寝室というか「自分の部屋」もあるらしい。
メロディは他国の王女だから問題になりそうなんだけど、そこら辺は上手く誤魔化しているようだ。
だってメロディはミストアの巫女でもあるからね。
シルデリアの第一王女がミストアのトップだとか知られたら大事なので、これについては箝口令が敷かれているらしい。
ただ、各国のトップはみんな知っていて、だからメロディも国王陛下方直接会って話したりしていると聞いている。
私なんか品定めされているだけなのに!
「役割が違うだけだ」
メロディはそっけなく言うけど、どう考えてもメロディの方が自由だよね?
言ってもせんないけど。
そのような決まり切っていながら緊張感溢れる毎日を過ごしているうちに式典が迫ってきた。
とはいえ、私がやることは何もない。
大々的なお披露目をされる身である割にはドレスを作ったりアクセサリーを揃えたりといった作業もない。
巫女はローブ姿と決まっている。
ただ、上品でありながら地味に派手なあのローブは同じ物が何着も用意された。
汚れてもとっかえひっかえ着ることになるそうだ。
「衣装はこれだけでいいの?」
「公式な場では」
助かった。
テレジアでは舞踏会とかパーティに出る度に新しくドレスを作らされたからなあ。
面倒くさい以前に貧乏性の私には精神的にきつかった。
そして。
ついに私の叙階と正式な巫女就任の式典日がやってきた。
実際には既に両方とも済んでいるから、これは一般向けのお披露目でしかないけど。
前にやったのは国内向けで今回は国際的というか各国のトップを招いての祭典になる。
この日はミストア全土で臨時のお休みとなり、すべての公的作業は中止される。
教都のあちこちでお祝いの料理や酒が振る舞われ、目端の利いた商人が用意した屋台があちこちに出ているらしい。
らしいというのは伝聞だからだ。
私は神託宮に閉じ込められているのよ。
お祭り、観てみたかったのに。
買い食いもしたいし。
「いけません」
ロメルテシア様がガンとして譲らなかった。
「お忍びでも駄目?」
「聖下のお役目は皆を見守ることでございます。
下々の者共に交じる意味はないかと」
初代巫女は貴族令嬢なのに自ら庶民の中には入って行ったらしいのになあ。
まあ、当時と状況が違うのは判る。
ロメルテシア様たちにとっては、万が一にも私に何かあったらすべてが崩壊すると思っているだろうし。
しょうがないか。
「私は何をするんだっけ」
「中央教会のバルコニーから手を振って頂きます。
正式なご披露は晩餐で」
それね。
私の前世の世界にあった某世界的宗教の指導者とかがやっていた奴か。
「演説とかはしないでいいの?」
「したいのですか?」
「絶対に嫌」
「そういうことで」
くそっ。
読まれているな。
やれと言われたらやるしかないけど、出来ればやりたくないのは当たり前だ。
ていうか何を言えばいいのよ。
それにしても暇だ。
物理的に孤立しているはずの神託宮にも何となく喧噪が伝わってくるけど誰も呼びに来ない。
私なんかいらないのでは。
「ではそろそろ」
果てしない待機の時間が過ぎて、やっとお呼びがかかった。
お部屋を出ると神官さん達でいっぱいだった。
ロメルテシア様を初めとする使徒の人たちも全員が揃っている。
晴れ舞台なのかも。
周囲が見えないくらいの人に囲まれて廊下を歩き、長い渡り回廊を通って中央教会へ。
階段を延々と登ると大広間だった。
教皇猊下以下、枢機卿の人たちがずらっと並んでいる。
ここで何かするのかと思ったけど違った。
「こちらへ」
光が溢れた。
広いバルコニーに出ると、空が開けていた。
雲一つ無い晴天。
そして眼下には広大な敷地にびっしりと詰まった人、人、人。
にも関わらず、物音一つしない。
何これ?
ホラー?




