345.支配者
それからニコニコ顔のロメルテシア様と考え込んでいるメロディ、そして諦観の極みに達した私がそれぞれの思惑を抱いたまま解散になった。
Xディが決まったからといって何がどうなるわけでもない。
私は相変わらず色々なお勉強と語学、そして色々な人達に謁見される毎日だ。
でも晩餐に同席するメンバーが微妙に変わった。
これまでは数人の王女様とそのお付きだったんだけど、二回に一回は王女様の国の伯爵とかが混じるようになった。
もちろんただの伯爵じゃない。
国王陛下の仮の姿だ。
しかも陛下は単独というわけじゃなくて、名代やら側近やら参謀やららしい高位貴族を伴っている。
ていうか大抵は主賓がその名代さんで、陛下は側近に身をやつしているんだけど。
そんな相手に私がひとりで対応出来るはずもないので、ミストア側は教皇猊下や枢機卿が同席することになる。
ロメルテシア様を初めとする使徒の方々も健在。
そういうメンバーで大勢にしては和やかに会食するんだけど、もはやこれって魔王城における魔王+四天王VS勇者ご一行の最終決戦なんじゃない?
どっちが魔王軍なのかは判然としないけど。
もっとも戦いにはならない。
お互いに適当な話をするだけだ。
でも名目上の主宰と主賓である教皇猊下と名代が向かい合って話している間、隅の方に配置された私と伯爵の肩書きで坐っている国王陛下が直接に顔つき合わせて密談しているのよ!
どうにかして(泣)。
でも誰も助けてくれないので、私は私のままで一国の最高権力者とお話しした。
「お初にお目にかかる」
「もったいのうございます。
ご身分が違います」
「それを言うのなら御身は神聖教の巫女であろう。
教皇猊下より位階が上と聞いたが」
「それは神聖教内部での立場でございます。
私は正式にはテレジアの一介の公爵で」
「それを言うのなら余なんぞ単なる伯爵だぞ?」
ニヤニヤ二笑うけど一介の伯爵は自分の事を「余」とか言わないよ!
国王陛下とため口なんか恐れ多いけど、相手がそうしろというんだからしょうがない。
私は敢えてざっくばらんに会話した。
陛下も別に情報を聞き出そうとかじゃなくて、単純に私という人間を知りたがっているみたいだったので赤裸々に何もかもぶっちゃけた。
「私は未だに根っ子では男爵子女、いやむしろ孤児で」
「その気持ちは判るな。
余も本来は臣籍降下して伯爵家あたりに婿入りする予定であった」
そうなの。
何があったんだろう。
聞きたくないけど。
「色々あって戴冠させられたが、最初は苦労したぞ。
統治者としての教育なんぞ受けずにいきなりだったからな」
「それはご愁傷様でございました」
「何、そんなものはなくても何とかなるものだ。
有能で忠実な側近がいれば良い」
さいですか。
まあ、その件については私も実感しているんだけど。
だって私がテレジア公爵なんていう馬鹿げた立場に追い込まれても何とかやっていけていたのは、有能過ぎる家令や執事、家政婦頭がいたからだ。
正直、私がいない方が上手く領地運営出来ていたと思うんだけど、誰かがトップに立たないと組織というものはまともに動かない。
そして封建国家であるテレジア王国は血筋と外部評価で統治者が選ばれる。
本人の能力は二の次だったりして。
「よく判ります。
私も常々」
「いや、御身はよくやっているぞ。
統治者の第一の責務は逃げずにすべてを受け止めてから人に仕事を投げることだからな」
さすがは国王陛下。
私なんかが言うのも何だが判っていらっしゃる。
ええと、どこの国の陛下だったっけ。
忘れた(汗)。
今更聞けないけど、まあいいか。
ちなみにこの場は一応公的なので、お互いに名前を呼ばなくても不自然ではない。
それほど親しくないからね。
そもそも私はともかく陛下は身分を隠しているわけだし。
だから名前を知らなくても問題ない!(違)
「何か特に気をつけることはございますでしょうか」
この際だから統治の専門家に聞いてみた。
無礼講だし、ここでの会話は記録には残らないからね。
というよりは残さないことになっている。
「そうさな。
言うまでもないが、自分を出さないことだな」
ある意味真っ当な応えだった。
「つまり我が儘を言うなと?」
「違う。
何かやりたいことがあっても自分からは言い出さないで配下にそれとなく示唆してやらせる」
「ああ、なるほど」
「支配者が何か言ったらそのまま実現してしまう恐れがある。
それがどんなに無茶なことであっても、一度トップが口に出したことは決定だ。
後でそんなことは言ってないなどとは言えない」
「そうですね」
「もっとも全部人にやらせれば良いというわけでもない。
その評価はやった者のものになる」
「なるほど」
「我々の辛いところはそこだな。
成功というか上手くいった場合は良い。
もちろん手柄は主権者である我々のものになるが、担当者も功績という評価に繋がる。
だが失敗したり問題が起きたりしたら」
「その人の失点になってしまう、と」




