33.要するにコネ
はっきり言って今のままでは私の将来は暗い。
貴族女性は基本的に嫁に行く。
自分以外に跡継ぎがいないような場合は婿を取って実家に残るけど、それ以外は全員いずれは外に出される。
残ったら跡継ぎの邪魔になるから。
嫁に行く以外にも実家を出る方法はあるけど、実は茨の道だ。
まず女官や侍女として王宮や他の貴族家に仕える道があるが、これは本人より実家の実力がものを言う。
要するにコネね。
こいつを雇ってくれれば○○しますよ、という取引だ。
本人の実力が評価されて、というのはまずない。
だって未経験だから。
何をするにしても、どこかで経験を積まないと仕事なんか出来ないんだけど、最初に雇って貰うためにはコネが必要なのよ。
その他には家庭教師などの道もあるけど、これこそコネがないと無理。
後は修道院入りかなあ。
「駄目よ。最近はお金を積まないと入院を拒否されるわ」
エリザベスが教えてくれた。
「そうなの? 清貧を旨としていると聞いたんだけど」
「昔はそうだったんだけど、それで行き場を無くした人が押し寄せてくるようになってしまったらしくて。
修道院側にも予算や収容能力に限界があるでしょ。
だから」
世知辛い(泣)。
そうか、だとすると私の前世の人が読んだ小説にあった「婚約破棄されて修道院行き」というのはお金があるから出来たわけか。
罰としてそうされる場合が多かったみたいだけど、わざわざお金を掛けてそんなことしていたってむしろ情がある?
「貴族家に嫁に行くのが難しいとしたら、やっぱり平民?」
聞いてみたけど返事は無情だった。
「貴族女性を嫁に取れるような平民って限られているから。
それに、貴族令嬢を嫁にしてもその家に何かメリットがあるかというと」
「ないの?」
「うちの嫁は貴族の血を引いてます、というだけじゃね。
貴族家と付き合いがある平民と言えばまず商人でしょ。商家は旦那だけじゃなくて奥方も商人だから」
「え? 奥向きを管理すればいいんじゃない?」
エリザベスは呆れたように肩を竦めた。
「取引先を接待したりパーティを開いたりは奥方のお役目よ? つまりお得意様の貴族だけじゃなくて商人仲間にも顔が利く必要がある。
ぽっと出の貴族出身の奥方にそんなこと出来ると思う?」
無理だな。
ていうかそれが出来るくらい有能なら、わざわざ平民に嫁ぐ必要はなかろう。
どこからでも引く手あまたのはずだ。
「貴族令嬢本人にそれが出来なくても、貴族家と親戚になることでメリットがあれば別だけど。
正直、男爵程度の家とお近づきになってもあんまり旨味はないのよね。
そんなの商人にも結構いるから」
ああ、それはそうか。
エリザベスの実家も男爵だ。
富豪と言っていい家だけど、身分的には貴族の中では最低に近い。
高位貴族家との付き合いもそれなりにはありそうだが、それは商売を通じてであって伝手とは言いがたい。
コネと言えなくもないが、出来てもせいぜい紹介して貰える程度だ。
増して、伝手もお金もないような男爵家の係累を嫁にとってもメリットはなさそう。
「希に平民が授爵した商人の嫡男なんかが貴族女性を嫁に取るけど、それこそもっと高い身分のご令嬢じゃないと駄目よね。
これを機会に貴族界に打って出ようというんだから、地方の男爵なんかだと意味がない」
「もういいから」
涙目で止めて貰う。
貴族にも平民にも嫁入りは絶望的か。
とすれば働く?
「だから働くためにはまずコネが必要で」
「それ、学院では作れない?」
思いついて言ってみた。
「……気がついたか」
エリザベスはペロッと舌を出した。
そして説明してくれる。
「そもそも学院ってそのためにあるようなものなのよ」




