334.擬態
そんなことを思いながらも顔には出さずにソファーにご案内する。
ひとしきり、どうでもいいような話をしてから合図するとお二人のお付きの人や私の配下の人たちがゾロゾロと出ていってしまった。
専任侍女や専任メイドを含めて。
これからは超トップ会談というわけね。
ドアが閉まってしばらくは沈黙が続いたけど、不意に母上が姿勢を崩した。
「ふう。
肩凝った」
それから。
「どうだマリアンヌ。
元気そうだな」
地が出ているぞ。
母上って幼少の頃はテレジア公爵に見初められたメイドの庶子という設定だったから、離宮で育ったとはいえ根っ子が庶民なのよね。
祖母上はそんな母上を苦笑しながら観ていた。
こちらは生粋の王族だから庶民の気配もない。
だけど婚約破棄された上に修道院から密かに脱出して他国に渡り、メイドとしてかつての婚約者の側に侍りながら庶子を産んだくらいぶっとんだ性格をしている。
何もかもこの人が原因だと言えなくもない。
「元気ですよ。
身体だけは」
ぶすっとして応える。
それ以外にどう応えろと?
「安心した。
テレジアの公爵として立派にやっていたと聞いたぞ。
ミストアの巫女にもなりきっている。
我が娘ながら大したものだ」
「しょうがないでしょう。
擬態は得意ですし」
「確かに。
我が家系の特技なのかもしれませんね」
祖母上こそ王女からメイド、そして王妃から王太后へと華麗な転身を果たしている。
しかも最近は沈黙の龍とかいう二つ名まであるらしい。
私なんかよりよっぽど化物よね。
「ところで何をしにおいでになったのでしょうか」
念のために聞いてみた。
判っているんだけど。
「愛娘の顔をみたいからでは駄目か?」
「孫の出世を言祝ぎたく」
駄目だこいつら。
まともにお相手していたら異世界とかに飛ばされそう。
「……まあ、いいです。
ところでお二人は今どちらに?」
「ライロケルの大使館を通じて適当な屋敷を斡旋して貰った」
「私も同じく。
貴方に迷惑はかけませんよ」
神託宮に泊めて監視しようかと思ったけど無理か。
まあいいや。
「いつまで滞在なさるおつもりで?」
「決まっているだろう。
神聖軍事同盟が軌道に乗るまでだ」
そうかよ。
祖母上も同じ理由だということだった。
ちなみにお二人とも母国の代表ではない。
会議には参加するけど立会人としてらしい。
「そうなのですか」
「同じような理由で滞在する者は結構いますよ。
重要な取り決めを行う場合、基本的には国王が単独で海外に赴くことはありません。
配下の他に名代が務まる身分の者を伴うのが普通です」
「私らはちょっと違うけどな。
皇王とは別個に動く予定だ」
さいですか。
それはそうかも。
だって国際的に二つ名を持つほどのお二人なんだよ。
名代なんかにならなくても独自で十分な力がある。
「そういうわけで今日は挨拶だけだ」
「何かあったら言いなさい。
潰してあげます」
物騒な。
二人とも信管が緩んだ爆弾みたいなものだからなあ。
私は曖昧に笑って送り出したのだった。
忘れよう。
その後、一応はロメルテシア様に頼んでそれとなくお二人の行動を調べて貰ったけど、二人とも地道に人に会ったりどこかに出かけたりしているだけのようだった。
テレジアでは離宮を拠点として国内を荒らし回ったんだけど、さすがにミストアは無理みたい。
「そうでもございません」
専任侍女が報告してくれた。
ミストアは封建国家じゃないから国王も貴族もいないんだけど、宗教国家とはいえ国であるだけにそれなりの身分制度というか階層がある。
神聖教の位階とは別に国土の統治や行政を担当する支配層みたいなものが存在するそうだ。
もちろん大商人とか国に付き物の大物も。
身分は平民だけど偉い? というか。
教都はともかくその他の土地では有力な統治者やその辺を仕切っている富豪なんかもいるんだけど、そういった人達と積極的に会っているらしい。
「その際、さりげなくではありますが今生の巫女様の血縁であることをお示しになられているようでございます」
やっぱりか。
あいつら、生粋の王族だからね。
結局の所は母国のことしか考えてない。
そして母国の役に立つと思えば何でも利用する。
ミストアという、普通だったら貴族や王族の論理が通用しない場所で巫女の血縁という目玉があるなら使わないはずはないのよ。
「どうなさいます?」
「ほっときましょう。
何か言ってくるようだったら潰して」
「御意」
そんなヘマはしないでしょうけど。




