328.専用
「これからどうなさいますか?」
そんな風に聞かれてもね。
メロディやロメルテシア様がいないと私の予定も五里霧中だし。
「ちょっとお休みしたい」
「御意」
寝室に案内されると、やっぱり離宮の私のお部屋にそっくりだった。
気味が悪いほどだ。
寝て目覚めたらテレジアの離宮に戻っていて、今までは全部夢だったとかじゃないよね?
「まずはご入浴を」
そういえば私、汗まみれの埃まみれなのでは。
巫女のローブのせいで目立たないけど、下手すると臭かったりしない?
まあいい。
「よろしく」
ということで、私はお風呂に放り込まれてメイドさんたちに洗われた後、ガウン姿で髪を乾かしながら専任侍女から説明を受けた。
ちなみにお風呂もそれは豪華で、私専用だそうだ。
あれ?
そういえばメロディも巫女なんだから私と同じ待遇になるはずなんだけど。
「メロディアナ様にも専用の居住施設が用意されているとのことでございます」
「巫女用の設備って他にもあるんだ」
「空いているお部屋を改装されたと伺いました。
これまでは一度に複数の巫女が存在したことはなかったとのことですが、万一のために予備の設備は用意されていたようで」
凄いなあ。
まあ、千年もやってきたんだからあらゆる事態を想定してあるんだろうな。
「貴方たちもメロディに仕えるの?」
「私共は殿下専任の配下でございます。
他の方にはお仕えしません」
ばっさり切られていた。
「メロディにもお付きがいるのよね?」
「かと思います。
よく知りませんが」
私に関係ないので関心もないみたい。
まあ、よく考えたら専任侍女や専任メイドって私の使用人であってメロディとは主従関係じゃない。
あくまで私個人の配下なのよね。
それにしては今までメロディの侍女や下僕、護衛騎士なんかに会ってないような気が……ああ、そういえば助手だか何だかの貴族令嬢を紹介してもらったっけ。
離宮にいた時にも結構配下を使っていた気がする。
側近の殿方たちはイケメン揃いだったけど、さすがにああいう人たちは連れてこられないだろうな。
未婚の姫君を取り巻く多数の貴公子って乙女ゲームじゃあるまいし、そもそもメロディならそんなの蹴散らしてしまうだろう。
まあいいか。
まだ日は高いけど、やっぱり気疲れしたみたいで眠くなってきたので寝ることにする。
寝室も豪華で天蓋付きの巨大なベッドが用意されていたけど、やっぱり離宮の私の寝室にあったものとそっくりだった。
誰かが気を回した臭い。
気にしない気にしない。
「ゆっくりお休み下さい」
専任メイドが寝室の窓のカーテンを閉め、ついでに天蓋のカーテンも閉めてから退出した。
やれやれ。
お布団はふかふかでいい匂いがした。
何というか、ここは極楽ですか?
いや、むしろ生贄に最後の贅沢を許した感じ?
だって今後の事を考えたらどうみても私が逝くのは修羅の道なのよ。
疲れた頭に色々な思考が渦巻いていたけど、そのうちに眠ったらしい。
ふと目覚めると辺りが暗かった。
ていうか寝室のカーテンが閉まっているからもともと暗いんだけど。
なぜ起きたのかというと、お腹が減ったからだ。
喉も渇いている。
起き上がって天蓋のカーテンを開けるとサイドデスクに水差しがあった。
気が利くなあ。
水を飲んでからとりあえずベッドから降りて窓のカーテンを開けてみる。
窓だと思っていたんだけど、引き戸になっていて外はバルコニーだった。
結構広い。
これじゃ外から丸見えなんじゃないかと思ったけど、バルコニーの向こうは広大な庭園になっていて建物は霞むくらい遠くに見えるだけだった。
狙撃対策は万全か。
なぜか専任メイドが来ないので、用意されていたスリッパを履いてバルコニーに出てみたら太陽が右側の地平線に沈むところだった。
ということはこのお部屋は南向きか。
広いバルコニーにはしゃれたデザインのテーブルと椅子が設置してある。
ここで朝食とか摂れるわけね。
どこのお金持ちのお屋敷ですか。
巫女って偉いんだなあ(違)。
「殿下」
寝室から専任メイドが慌てて出てきた。
「おはよう、は違うか」
「申し訳ございません!
殿下自ら」
「いいのいいの。
たまには専任メイドだって休まないと倒れるよ」
「ご配慮ありがとうございます。
ですが私は殿下成分を十分に摂取しないと狂乱しそうですので」
私は暴走防止剤か!
心配して損した。




