327.英雄
そうなんでしょうね。
どう考えても初代巫女ってじゃじゃ馬どころの話じゃない女傑だったとしか思えないのよ。
だって自分で宗教を作ってしまったのよ?
英雄どころか怪物と言っていい。
「私はよく知らないのでございますが。
初代様は時の王子の求婚を一顧だにしなかったとか」
「伝記にはそう書いてあります。
立場から言ってどう考えても断れないお話だったはずですが、無理矢理押し通したと」
伝記なんかあるんだ(笑)。
というよりはむしろそれってもう「聖書」じゃないの?
「危険過ぎるのでは」
「身分や立場を越えた覇気をお持ちであられたそうです。
その王子はのちに国王となり、引退後は信徒となって初代様の側に侍ったと」
無茶苦茶だ。
でも例えばメロディならやってしまいそうだもんなあ。
私がため息をつくとアルメイダ様も苦笑された。
お互い、化物が身近にいると苦労するよね。
「お疲れでしょう。
しばらくはのんびりしてお心とお身体をお休め下さい。
本格的に忙しくなるのは当分先です」
教皇猊下の暖かいお言葉に甘えて退出する。
ドアの前ではロメルテシア様が一団の神官さんたちと打ち合わせらしき会合を開いていた。
「ロメルテシア様」
「巫女様、失礼致しました。
お部屋にご案内させて頂きます」
その前に、と言ってそこにいた人たちをまとめて紹介してくれた。
私の側付き、というよりは神託宮の職員になる方々だそうだ。
グレースたちはいいのかと思ったけど、この神官さんたちは直接私には関わらないらしい。
「神託宮は教会から組織的にも物理的にも独立しております故」
そうなのか。
つまり神託宮の運営組織の職員さんたちね。
別にいいけど。
ロメルテシア様に案内されてまた廊下を延々と歩き、長い回廊を抜けるとちょっと小ぶりな建物があった。
と言ってもそれは中央教会の規模に比べてであって、大きさや収容能力はそこら辺のお屋敷とは別格に見える。
むしろお城に近いような。
それに何か綺麗というか随所が輝いているのよね。
「新築?」
「いえ。
巫女様の降臨に合わせて全面改装致しました」
さいですか。
そういえば巫女が出たのは百年ぶりとかいう話だった。
神託宮はもちろん当時からあって、その巫女が住んでいたんだけど引退してからは空き家状態だったんだろうな。
それを整備したと。
「設備も最新の物に換装させて頂きました。
不自由をお掛けすることはないと存じますが、何か有りましたらお申し付け下さい。
すぐに対処させて頂きます」
「ありがとう」
渡り廊下の終点では使徒の衣装を纏った美熟女と美少女が迎えてくれた。
何といったか、こないだ紹介して貰った使徒の人たちだ。
名前忘れた(泣)。
「ようこそ、当代巫女様」
「ご着任を歓迎させて頂きます」
はいはい。
驚いた事にホールというかエントランスでは専任メイドや専任侍女を初めとした私の側付きの人たちが待っていてくれた。
「では失礼させて頂きます」
ロメルテシア様は何か用があるらしくて、使徒仲間達と神官さん達を引き連れて去った。
なぜか勝手知ったる専任メイドに案内されて私のお部屋に入ってみたら。
やはりというか何というか、それは素晴らしかった。
絢爛豪華というわけじゃないんだけど、広すぎず狭すぎずの広さに落ち着いた色彩の壁紙が映える。
執務室には私がテレジア公爵家の離宮執務室で使っていた物と似たような調度が備え付けられていた。
早速ソファーに座ってみる。
ふかふかだった。
専任メイドがお茶を配膳してくれた。
「ありがとう。
随分慣れているわね?」
「殿下方がパレードに赴かれている間に着任して色々準備させて頂きました」
ちゃっかりしているな。
私が教都内を引き釣り回されている間に神託宮に直行したみたい。
それで色々と詳しくなったと。
いや使用人としては当然か。
自分らの職場だものね。
「貴方たちの住むところとかは大丈夫だったの?」
「基本はこの神託宮に住み込みになります。
マリアンヌ様の居住区は中央教会とは隔てられておりますので、私共もご一緒に」
「ああ、そうなんだ」
神託宮って神聖教の中央教会からは物理的にも隔絶しているらしい。
あの長い渡り回廊が境界なわけね。
一般信徒はおろか神官さんすらおいそれとは近寄れないようになっている。
そういえば組織自体が神聖教とは別系統と聞いたな。




